あと一欠片のピース




肌寒くなりはじめた空気を切ってこぐと、冷たい風がわたしをまとって、短い髪をなぶった。


錆びれたブランコの鎖が冷たい。


でも、だんだんと握っていれば自分の体温で生ぬるくなってくる。


その感覚がなんだか心地よい、というか、いやそこまで良くはないけれど、なんというか、…悪くはない。


茜はしばらく顔をしかめていたが、気持ちを切り替えたようにして、スッとブランコに立ち上がって口を開いた。



「じゃあ影王子はなんだったんだろね」


「それも、わたしにはわかりっこない」


「うちにもわかりっこない。けど、噂によると宮崎って殆ど喋らないらしいじゃん」


「うん」


「なのに、今宵には自分から話しかけてきたんでしょ」


「そう、だね」



クラスが違うから、噂でしか彼のことを知らないけれど、それでもみんなが揃いも揃って「無口で無表情で陰キャラのくせに、すごい綺麗」と言う。


影王子の「影」は、本来なら「陰」であると誰かから聞いたことがある。


彼の名の由来は「陰」であるのだが、その字はマイナスの意味があるらしく、あっさりと「陰」は「影」になったらしい。



「なんで突然、今宵に話しかけたんだろう」


「優しいからかな」


「いや? 噂によるとそんなに優しくはないはずだけど」



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