あと一欠片のピース
すごくお行儀が悪いと思うけれど、ちょっとこのままキープするのは精神的に無理だ。
すると、千が不思議そうにしてわたしを呼んだ。
「今宵、どうした?」
「や、平気だから気にしないで。茜といて」
茜はわたしの言葉にちょっと慌てた顔をしながらも少し嬉しそう。
顔に出てるのわかってるのかな。
単純だ、かわいい。
お母さんの「早く戻りなさいよー」という言葉に頷いて、わたしはリビングから出てきた。
廊下を歩いて、サンダルを履き外に出る。
「はーあ」
しんと静まる真っ暗な夜の世界がわたしのため息を呑み込んだ。
なんでため息なんてついているのだろう。
別に宮崎がいようとどうでもいいのに。
ていうか、うるさい千がいるだけで憂鬱だってのに。
「……今宵ちゃん?」
「え、あれ?」
シャーと車輪の音がしたと思えば、そこにいたのは自転車にまたがる青木先輩。
「先輩の家、ここら辺なんですか?」
「違うよ。今日は怪我をした後輩を送り届けたからこっちまで来たんだ」
「あ、なるほど。お疲れ様です」
「ありがとう」
にっこりと笑う先輩は、この時間に慣れているらしい。
部活帰りはいつもこんな風に遅い感じなのかもしれない。
そりゃあ我が校の陸部は全国レベルだから真面目だと聞くけれど、こんなに遅いとは。