あと一欠片のピース
影王子。
それは隠れファンがちらほらいるらしい、我が高校の影の王子のこと。
「もーそんな怒らないでよ」
「うるさい」
「そんな風にしてるとあからさまだよ?」
「黙れ。それか空気に謝れ」
「ひえっ、酷いやー」
写真を持っていることが発覚していたことに茜の行動でやっと気がついたらしいわたしは、階段を大きな音を立てて登るくらいに怒っていた。
という風に見えるだろうが実際は、恥ずかしすぎてそう見えるくらいにパニクっていた。
というか、え、わたしあの人のこと「好き」なの?
え、そうなの?
「えええええ!?」
「今宵、大丈夫? 病院いく?」
「行かない。学校サボる」
「じゃあお供する。いい?」
「茜の好きにして」
階段の踊り場でくるりと半回転して高速で登ってきた道を駆け下りて、わたしはまた下駄箱に向かった。
恐る恐る、靴箱の戸を開ける。
と言ってもここを離れたのは少しの間だから何かが入っているなんてことない。
いつもと変わらぬ様子の下駄箱になぜか安堵の息を漏らしながらわたしはローファーを床にポンと投げた。
上履きを片付けて、先ほどのパズルを封筒に入れて、下駄箱に戻す。
斜め上に上がった綺麗な〝今宵〟の字が視界をかすめるけれど、知らない。
どうせ間違いでわたしの下駄箱に入れたのだろうと思いたいから。
明日には無くなっていますように。