あと一欠片のピース
「今宵、落ち着け」
「ごめん茜、わたし馬鹿だからわかんない」
「うん、馬鹿だもんね。馬鹿な今宵にもわかるように話すね」
「て言う茜も普通に馬鹿だけどね」
「でも古文だけは得意だよ」
「知ってる。で?」
いつも通りの馬鹿みたいな下りを経て、やっと本題に入る。
「あのね、今宵。古文好きな人は〝今宵、貴女の〟とか使いたくなるわけよ」
「へぇ、そういうもの?」
「そういうもの。〝今宵〟とか〝貴女〟とか漢字で書きたがったり、リアルで使ってみたいって思ったりするの、めちゃくちゃわかるもん」
ふーん?
テレビでやってるドッキリだったり、好きな女優さんのファッションだったり、そういうのを “真似したくなる” っていうのと同じような感じみたい。
古典単語を日常生活で使ってみたいと思ったことがないからよくわかんないけど、テレビとかに置き換えたらなんとなくわかったかも。
「あれ? でも茜〝貴女〟読めなかったじゃん」
「それは寝ぼけてたからだからいーの」
「嘘つけ」
「ど忘れしてたの。ってそんなこと今はいいんだよっ」
「あ、流した」
「お願いだからもうそれスルーしてよ馬鹿!!」
茜がバン! とわたしの机を両手で叩いた。
いやいや、そんなに熱くならなくても。