あと一欠片のピース
茜は先輩が待つ教室の扉の方へ向かった。
何をする気なのだろうか。
わたしには想像がつかない。
ガヤガヤと騒がしい教室のせいで、話し始めた茜と先輩の声は全く聞こえなかった。
そんなに遠い距離でもないのに、なぜか聞いてはならないようにも思えたし、聞こうにも聞けなかった。
しばらく2人が話しているのを遠くにいる気で見ていたら、話が終わったのか茜がわたしを呼んだ。
「今宵」
「はーい」
仲間はずれにされたようでどこか悲しいような、悔しいような、うん、でもなんか違うかな。
若干無理やり何でもないように思って、ごちゃごちゃになってしまった気持ちを一旦ポイッと捨てる。
そして、わざとらしく声を明るくして返事をしたわたし。
それを察したのか茜が一瞬だけ眉を寄せた。
「お待たせ。先輩が話あるって」
「うん」
「じゃあ、うち席戻るから」
「……うん」
頷きながら、なぜ茜が先輩と話す必要があったのか、そればかりが頭を考え巡った。
わたしには聞かれちゃダメなことを話していたのだろうか。
「今宵ちゃん」
「……先輩?」
考え込んでいたわたしを、先輩はいつも以上に優しい声で、なぜか深刻そうな顔でわたしを見下ろしていた。
なんでそんな顔をしているんです?
わからないよ。
「……話しておかなきゃと思って、ずっと言えなかったんだけど」
「何のことですか?」
「…真尋(まひろ)のこと」