あと一欠片のピース
先輩の口から紡がれた三文字に心臓が嫌に音を立てた。
「……誰、ですか?」
「…やっぱり」
先輩が小さく、本当に小さくそう呟いたのを待っていたかのように8時半のチャイムが鳴り響く。
「今宵ちゃん」
「あ、チャイム着席しなきゃ」
「ねえ、今宵ちゃん」
「あーやばい。一限の小テスト勉強してないや、しなきゃ」
「今宵ちゃんってば」
「パズルさんの続きも気になるし…」
色々と理由をつけて、先輩の前から立ち去ろうとするわたし。
それがわかったのだろう先輩は、わたしの頬を軽く叩いた。
だけど、わたしに何かを伝えたいのか、ちょっと涙声のような、怒り口調のような、どっちかわからないけど、思いをぶつけられるような呼ばれ方で不意に名前を呼ばれた。
「今宵!」
思わずビクついて力が入ってしまった肩を、先輩が優しく触れて力を抜けさせていく。
「今宵、聞いて」
「……はい」
「真尋の話したいから、今日の午後空けといて」
それから担任が我が教室に来て先輩を追い払い、ホームルームが終わって、一限の小テストが色んな意味で終わって、それでもわたしはひたすらにボーッとしていた。
先輩からの願いに、わたしは何の反応も示さなかった。