あと一欠片のピース





『き、嫌いでは、ない、よ』


『良かった…!』



わたしのカタコトの言葉に彼は安堵の息を漏らして、わたしを抱きしめた。


なに、なんで、良かったなの。


なんで、抱きしめられているの。



『今宵が俺のところに来なくなってやっと気がついたんだけど、俺、今宵がいないとダメみたいなんだ』


『……は?』


『俺、今宵のこと、』


『待って!!』



ドンと力任せに彼を突き飛ばした。


だって、それ以上聞いてしまうと、真尋との関係が、真尋との繋がりが……。




『……今宵?』


『え…』



呼ばれた声に振り向くと、屋上の扉のところに、なぜか真尋がいた。




『今宵、何してるの?』


『えっ、えと、その』



言い淀むわたしに、真尋は怖いくらいに綺麗に微笑んだ。


どくん、胸が締め付けられた。



『真尋、あの、話を聞いてほしいの』


『嫌だよ』



断られたことでどうしたらいいのだと彼女のことを見つめると、彼女の唇が歪んだ。


そして、次の瞬間には驚くほどの速さで走り、フェンスによじ登った真尋がいた。



『真尋…! 何して!』


『真尋ね、鳥になるの』


『何、言ってんの。ふざけないで!!』



真尋を連れ戻そうとフェンスを登り彼女のいる、フェンスの反対側へ行き彼女の横に立つ。


そこはすぐ先には何もないところで、とても生きた心地がしなかった。



『今宵も一緒に、鳥になる?』


『嫌! ふざけるのも大概にしてよ!!』


『ふざけてないよ。真尋は正気だよ』




すう、と細められる瞳にぞくりと背筋が凍った。



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