あと一欠片のピース
『今宵、お願い真尋を連れ戻して…っ』
いつの間に来たのか、茜がわたしたちの名前を呼んだ。
わたしはそれで気を持ち直したのだが、振り返った真尋の瞳に1番に映ったのは、声を出した茜と千ではなく、血の繋がった兄だった。
『あ、矢尋(やひろ)お兄ちゃん』
『真尋、こっちに戻って来なさい』
『嫌』
『そんなことをしても、おまえは鳥にはなれないよ』
『お兄ちゃんだって、鳥になんかなれてないよ。鳥にはなれないよ』
真尋のお兄ちゃんである青木先輩は、妹の言葉に顔を歪めた。
『どんなに跳べなくて笑われて鳥のような羽を望んだって、所詮人間なんだから鳥にはなれないの。だから、真尋が鳥になってお兄ちゃんの羽になってあげる』
その言葉は、鳥のように美しく跳ぶと言われている青木先輩が、現在スランプ気味だと言われて笑われていることについて真尋なりの優しさを含んだものだった。
だけどそれは逆に先輩の心をえぐるものとなったようで、先輩はショックからか固まってしまった。
『わたしね、鳥になってみんなの羽になるの。みんなを上から見守るの』
真尋はほわんと色づいた頬をして、朗らかに笑った。
居ても立っても居られなくなったわたしは、真尋の頬を叩いた。
そのせいで、ぐらりと傾く彼女の体を必死で支えて、わたしは息を吸って空気を取り込んだ。
『真尋、ごめん』