あと一欠片のピース





ガシャン、叩きつけられるようにしてぶつかったフェンスに指を突きつけて捕まる。


だけど、すぐに地上へ向けた顔を、歪めた。




『真尋ーーーーー!!!!!』




遠ざかっていく真尋の姿が、はっきりと目に映った。


そんな中で彼女の口が、声にならない言葉を紡いだのが確かに見えた。




『大好きだよ』




彼女は、今までで一番の綺麗な笑みを浮かべていた。


そしてわたしの腕が誰かに引かれたせいでわたしの視界から真尋の姿が消えた。




それからどうやってその日を終えたのか、覚えていない。



真尋の死が与えた大きすぎるショックから、わたしは1年もの間、青木真尋の存在を思い出すことはなかった。



事件の次の日も、そのまた次の日も、わたしは平然と日々を過ごしていた。


ただ何か大きなものを失ったかのような喪失感に支配された。


だが、それも時が経てば慣れるというもので、いつの間にか喪失感までも失っていた。


そうして出来た「藤野今宵」が無気力で何もかもがどうでもいいと思っている、今現在のわたしなのだ。




わたしは「真尋」という存在を忘れてはいけなかったのだ。




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