運命なんてありえない(完結)

「じゃあ、1時間休憩にしましょうか」


後ろの方で撮影を見ていた青山さんに声をかける。
やや難ありと言っても半日撮影に付き添いほぼ見てるだけは疲れただろうし、彼女と同等になるつもりはないので、営業スマイルを貫く。



「ええ、では1時間後にそこのエレベーター前で」


朝の愛想はどこへ行ったのか……と聞きたくなる程に素っ気なく言い放ち青山さんはそそくさと食堂を後にし階段で下りていく



「杏さん、佳香さん橘の奢りで一緒に食べましょ」


私と佳香が呆気にとられていると、女性役のモデルをしてくれた河本さんが嬉しそうに回数券4枚を綺麗な顔の近くに広げて声をかけてきた。



河本さんの後方、窓側の席に座っている橘さんを見ると笑顔を返してくれたのでありがたくご馳走になることにする。





キャーキャーとハイテンションな佳香と料理を取っていると、昼休憩に入った社員の方々が続々と食堂へとやってきた。






「橘さん、ご馳走していただいてありがとうございます。」


橘さんと河本さんが待っていてくれた席に座り、奢ってもらうお礼を述べる。佳香も私の隣に座り「ありがとうございます」と頭を下げる。



「いえいえ〜、気にしないでください」


返事をくれたのは河本さん。
撮影時には2人向かい合わせに座ったが、私と佳香が並んで座れるように橘さんの横に移動していたという気遣い。


そんな河本さんに「なんでお前が返事してんだよ」と隣に座る橘さんから突っ込みが入ったが、気にした様子もなく「いただきます」と食事を始めた美人。



うーん……



「仲良いんですね〜」




それ!佳香の言葉に「ねー」と賛同する




「「えっ?やめてくださいよこんなやつ!ただの腐れ縁の同期です!」」



と声を揃えて返してきたので、微笑まずにはいられない。



掘り下げて聞いてみると、高校からの同級生で大学も一緒だったらしい


「ちなみに大也も高校から同じですよ」



橘さんのその言葉に急速に動きを速める心臓

そして私の隣と斜め向かいに座っている女達がニヤニヤしだした


うぅ……寒気が背中を走る



「へぇ、そうなんですね」


ニヤニヤしている女達に気付かない振りをして
心臓がもたないのでこれ以上酒井くんの話が続かないことを祈る




< 11 / 75 >

この作品をシェア

pagetop