運命なんてありえない(完結)
「じゃあ大也にもチャン―ぐっ…」

何かを言いかけた河本さんの脇腹に橘さんの肘が入り痛みに悶える様子の美女…


今、酒井くんの名前が出たような気もするけど聞かなかったことにしよう



「大也はスポーツ科学部でラグビー部だったんですよ」

隣人に肘を入れたとは思えぬ程の爽やか笑顔で橘さんが話を変える



「へぇ…ということはラグビー場で練習してたってこと?」

ということは私が大学時代に撮ってた可能性もあるな…


「そうですよ」


突然降ってきた低音ボイス…

そして佳香が座っていた席の反対側の隣に腰を下ろす彼にまたもや心臓が反応し脈を上げる



「大也遅ぇよ」

橘さんと昼食の約束をしていたのだろうか、遅れてきた酒井くんに抗議した


「悪いあの人撒くのに手間取った」


疲れた表情で返す酒井くん

あの人とはきっと青山さんだろう…あの人も必死ですね


「杏さん」


突然低音ボイスで名前を呼ばれ血液が顔面に集中するのがわかる

でも無視するわけにはいかないので「はい」と小さく返事をして恐る恐る酒井くんを見上げる






「日下さん!!」




後ろから突然、食堂に響き渡る声で名前を呼ばれビクッとなった


予想しなくても声で青山さんだとわかるが、振り返ると鬼のような形相…



「いつまで休憩してるんですか!?早くしてください!!」


「え?……でもまだ時間では…」

時計を確認するも約束の1時間後までは20分ほどある


「社長がお待ちですよ!」



つかつかと私の元へきて腕を掴み引っ張る。
力加減が本気だ……ここで抵抗しても他の方に迷惑がかかるだけなので彼女の力に身を任す



「あれ?杏さん?」

料理を取り戻ってきた佳香が首を傾げている


「佳香、ゆっくり休憩してて!社長室はアシなしでいいから!橘さんご馳走様でした!」


青山さんの物凄い力で引きづられるように歩きながら肩から掛けていたカメラがぶつからないようにもう片方の手で胸に抱き、佳香に休憩の指示と橘さんにランチのお礼を述べる。


「杏さんまたお食事でも行きましょうね」


と、触らぬ神に祟りなしとばかりに河本さんに手を振り見送られた

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