運命なんてありえない(完結)
〜中学生体験〜
「大也に近付かないでよ」
青山さんに腕を引かれ連れて来られたのは社長室……ではなく社長室の階と役員室の階の間の踊り場
うん、人が来ないという意味では最適ですね。食堂からすぐの踊り場では人が通る可能性もありますもんね
中学生かよ……と突っ込みたくなる気持ちを抑え、解放された右腕をさする
「見てましたよね?橘さんの隣も空いていたのに私の横にわざわざ座ったのは酒井くんですよ?」
恋する妄想女の暴走は好きではないので応戦することにする
先ほどの酒井くんと橘さんのやり取りから察するに酒井くんが彼女に好意を持っていることもなさそうだし、彼女のプライドの高さからしてここで私にボロクソに言い負けたとしても社長に泣きつくこともないだろう
「私は大也が入社した時から好きなの!後から出てきて色目使ってんじゃないわよ!」
色目…どうやって使うんだーーー誰か教えてくれーーー
「入社した時からって所詮1年ですよね」
「あなたなんてほんの数日じゃない!」
「ええ、私が酒井くんを認識したのは二週間前なので彼に色目使う程彼のこと知らないですけど、彼が私のことを想っているのだとしたら5年前からですよ?」
『あくまで想定の話ですが…』とは付け加えない
「5年前なんて学生じゃない!知ってるはず―」
「ないなんて言い切れるんですか?私が彼と同じC大出身でも?」
「な……」
言葉に詰まるコテコテ化粧の女…
「好きになることに先も後も関係ないと思いますけど、少なくとも私は酒井くんが会社に男漁りに来てる腰掛けを相手にするような男なら興味ないですよ」
酒井くんが青山さんを相手にするとは思えませんが…
「腰掛け…?」
呆然と呟く彼女にとどめを刺そう
「あれ?自覚ないんですね。部外者の私ですら気付きましたよ?撮影箇所の資料は貰ってるのでいなくても問題ない撮影の付き添いに任命されてるのに…」
両拳を握り締めわなわなと震え出す彼女に、殴られる前に退散しようと決める。
「ここから先は付き添いは不要ですので、撮影が早く終わったとご自身の部署へお戻りください。お疲れ様でした」
階段を上り、扉を開ける前に少し振り返ると青山さんはその場から微動だにせず、顔を俯かせていた