運命なんてありえない(完結)
吉野さんがクッ〇リーを回収してきてくれるのは速くても10分くらいかかるだろうからその間は裸足でやるしかないかと思い、パンプスとソックスタイプの膝下ストッキングを脱ぎグランドへ出る
「じゃ杏さん、先に並ばせてますね〜」
コンクリートから人工芝に変わる手前でビビっていた私にそう声をかけグランドへ出ていき選手達を集め並ばせていく
足元を見つめる…5cm先の人工芝は素足には痛そうだ
しかし選手の方々を待たせておくわけにもいかないので恐る恐る足を出す
「杏さん!」
突然呼ばれた低音ボイスに人工芝まであと1cmだった足を引っ込める
「はいっ!」
声の方に顔を向ければそこにはやはり酒井くんがいて
「これ使ってください」
そう言って差し出されたのは、真新しいスパイク
「え…でも」
「これ今度の試合終わったらおろそうと思って昨日買ったばっかの新品なんで綺麗ですよ。ちょっと大きいですけど…」
そう言って私の足元にしゃがみ込みスパイクの紐を緩め足を入れるよう促す
「スパイクって他の人に履かれるの嫌なんじゃ…」
「杏さんは特別。杏さんが履いたスパイクならもっと速く走れる気がする」
そう言って私の足を掴みスパイクに収めていく。心臓が破裂しそうです。
掴まれた足が熱い
「はい、できた」
スパイクの紐を結び満足気に微笑む酒井くん
「すごい、明らかに大きいのにカポカポしない」
「締め方にコツがあるんですよ。激しく動くのは無理ですけど、少し歩く程度なら大丈夫です」
「ありがとう」
俯き気味にお礼を言う
本当は正面向いて言わなきゃだけど、恥ずかしくてできっこない
「さ、行きましょ」
そう言って酒井くんは集合写真のために整列してる選手達に入っていった
「イチャイチャしてんじゃねーよ」という冷やかしも聞こえたがみんな酒井くんの5年前からの想いを知ってるような仲間に愛されてるなって思えるいじられ方についこちらも微笑んでしまった
そんな場面も撮っておこうとまだ離れた場所にいたが、シャッターを切る
「ちょっ日下さん何撮ってんですかー」
と誰かから抗議の声も出たが、みんなの爆笑で流される
「なんか微笑ましかったので撮っちゃいました〜」
なんて言いながら、撮影ポジションに移動する
うん、並び方はバッチリ!