運命なんてありえない(完結)

「三脚なんて珍しいですね」
そう言いながら佳香は鞄の中から伸縮性の三脚を取り出しセットし始める


極力三脚は使わない主義だけど、今日は撮る人数も多いし、何より…


「痛っ」


私の右腕を掴み持ち上げて険しい顔をしているのは間違いなくさっき殺人的スマイルをかましていた酒井くんで、私の右腕の袖を少し捲るとその表情はさらに険しくなった


「すいません、俺の不用意な行動のせいで…」


私の右腕を解放すると険しかった顔は一転どこぞのチワワのようにションボリした



「酒井くんのせいじゃないわ。あの時、振り払うこともできたもの。」


コテコテ化粧女に掴まれていた右腕の箇所は青く掴んでいた指の形でくっきりと内出血をしていた

あの場で酒井くんに助けられれば火に油だし、振り払えばあの場で揉み合いを始めそうな勢いだった青山さん。高梨様の会社でそんなことはできないと判断した私の営業としてのプライドがこの結果だ



「犬からは守ってくれるんでしょう?」


佳香が立てた三脚にカメラをセットしながらションボリしたままの酒井くんに問う

恥ずかしいから正面からは顔は見られないけど


「もちろんです」


期待した通りの答えと屈託ない笑顔にこちらも微笑まずにいられない




「ワンっ」



そこへクロを連れたキャプテンが戻ってきた


「きゃー可愛いー!!」

なんだかんだ佳香が1番に駆け寄りクロをワシャワシャとする


「キャプテン、クロちゃん抱いたままこちらに〜」

クロを私に近付けないように撮影ポイントまで誘導する優秀なアシスタント


そしてキャプテンがクロと佳香に気を取られている隙にシャッターを押す


シャッター音を聞いていた佳香はさり気なくキャプテンの立ち位置を前へと移動させる。
普段なら私が前に動いてアップにするところだが私の右腕を気遣っての誘導に本当に気が利くアシスタントだと感心する。


広角から望遠に(所謂ズーム機能を駆使)すれば同じ位置で全身と上半身アップは撮れるが、広角の時にできる歪みが今は必要ではないので望遠のまま撮影をする。

スタジオだと広角にしないと集合写真で全員が入らないなんてこともある





「はいオッケーです」



「え?もう?まだポーズ取ってないよ?」

私のオッケーの合図にキョトンとするキャプテン


「バッチリいい笑顔撮れてますよ〜」


営業スマイルで答える


「ぶはっあはははっ」
一部始終を私の後ろから見守っていた酒井くんがお腹を抱えて笑い出した


笑ってる姿もストライクだなんて反則だ


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