運命なんてありえない(完結)
暗黒時代の逆襲
〜暗黒時代との決別〜
酒井くんに連れられて着いた店は駅前の通りから1本手前の路地裏にある隠れた小料理屋
「こんなとこに店あったんだ」
少し歴史を感じる店構えは綺麗に手入れが行き届いていて、入りにくさを感じさせない
「穴場でしょ?料理も美味しいんですよ」
そう言って引き戸をカラカラと開け頭が当たらないように下げながら中に入る酒井くんに続き私も中に入る
店内も想像した通り歴史は感じるものの手入れが行き届いていて雰囲気がいい
カウンターが5席と2人掛けのテーブルが5席というこじんまりとした作りになっていた
「こんばんは、2人なのでテーブルに座りますね」
酒井くんがカウンターの向こうにいる大将と思しき人物に声をかけ奥に進むので、私もペコリと頭を下げて彼に続く
「おぅ大也……おい!おっかぁ!」
大将と親しいようで、名前で呼ばれているようだが、私の顔を見て慌てて中に入っていった
私…指名手配でもされてたかなと内心ビク付きながら、酒井くんに促されるまま壁側の奥の席に座る
店内はまだ人も少ない時間帯なのか、カウンターに男性が1人座っているだけだ
「大也くんいらっしゃーい」
そう言いながら店の奥から女将さんと思しき女性が出てきた
「大也くんが女の子連れてくるなんて初めてじゃない!しかもこんなべっぴんさん!」
嬉しそうに喋りながらテーブルにお冷とお絞りを起き、ありがたいことに足元に荷物を入れるための大きめなカゴも用意してくれた
この気遣いに手入れの行き届いた店も納得だ
「この人は特別なの!変なこと吹き込まないでよ?」
笑いながらそんなことを言って、何飲みます?と聞いてくれる
「……芋水割りで」
悩んだけれど自分の欲求に従うことにした
酒井くんが女将さんに生中と芋焼酎の水割りを注文する
「ビール苦手なの?」
飲み物を待ってる間に聞かれる
「ビールがって言うより、炭酸が飲めないのよね」
肩を竦めて答える
「他に苦手な食べ物とかは?」
「うーん…強いて上げるなら餡子くらいかなぁ」
「好き嫌い少ないんですね。」
そんな会話をしていると女将さんが生中のジョッキと芋焼酎の水割りが入ったグラスとお通しを運んできた
「はいどーぞ、今日のお通しはなばなの辛子和えね」
「うわぁ美味しそう」
私の感動の声に「美味しいよぉ」なんて得意げに答えてくれる女将さん
「餡子以外で適当にいつもの感じでお任せでお願い」
ざっくりな酒井くんからの注文に「はいよぉ」と元気よく返事をして店の奥に戻っていく女将さん