運命なんてありえない(完結)
ドンっと背中が壁に…
壁?
いやここは一本道だから後ろは道が続いているはず
恐る恐る後ろを振り返ろうとした時
「クロ、探したよ」
壁が喋り、ビクッと肩を上げる私
その低音ボイス…超どストライク!
って今はそれどころじゃないぞ私!
そんなことを考えているとクロと呼ばれた小さな悪魔は私の後ろにいる壁に尻尾を振りながら「ワンッ」と吠えた。
再びビクッとなる私の横をすり抜け、クロを抱き上げた壁……いや、服装からするにラガーマン
「すいません、コイツが道を塞いでしまっていたみたいで」
クロを左手で抱き、こちらを振り返りペコリと頭を下げ顔を上げた彼は身長165cmの私が見上げる程の身長に、綺麗についた無駄のない筋肉にラガーマンにしとくのが惜しいほどの甘いマスクをしていて、
「いえっ、と…っとんでもないです」
噛みながら顔に血液が集まるのがわかり、咄嗟に俯く。
小さな可愛らしいはずの犬にビビり動けなくなっているところを見られるなんて……穴があったら……いや掘ってでも入りたい気分だ。
この場所でラガーマンてことは、彼は今いる道路に面しているグランドで練習をしていたのだろう。ということは私の目的地と同じ場所である。
と言っても私のお客様はラガーマンではなく、全国的にも有名な大手企業、高梨グループの社長の高梨様。いつもは本社に商品を届けているが、今日はこちらに視察し直帰するということなので、この大きなラグビー場へとやってきたのだ。
俯いている私の顔を覗き込む様に「大丈夫ですか?」と声をかけてきた彼の胸元に抱えられた小さな悪魔を見て、「ひっ」と後退りする。