運命なんてありえない(完結)
全ての行程が終わり、選手達もグランドから姿を消し観客も引いていった頃、高梨様のご厚意で、吉野さんの車にホテルまで乗せてもらえることとなった
宿泊するホテルは高梨グループの社員とラグビー部の方達と同じでいいと思い、佳香を通して吉野さんにお任せしていた……けども……
「え?私、佳香と同じ部屋じゃないんですか?」
大きなホテルのフロントロビーで私の声が響く
私に渡されたルームキーは『3501』
佳香が持っているのは『1512』
階数まで違うなんて…
「すいません、酒井くんに頼まれてしまったのでご勘弁ください」
え?大也くん?
「杏さん、3501ってスイートルームじゃないですか?」
佳香がロビーの柱に掲示されている館内マップを指し示す
確かに35階は部屋数が極端に少ない…
佳香とエレベーターで別れ35階のルームキーに示された部屋に入ると予想通りスイートルームだった
さすがスポンサー契約まであると稼いでる額が違うな…なんてひねくれた考えも浮かびつつ
奥へ進むと広々としたリビングルームのテーブルの上に散りばめられた薔薇の花びらと真ん中に置かれた小さな箱
荷物を床に下ろし箱を手に取る
コンコンコン
箱を開ける直前にドアがノックされる
手に箱を持ったまま今入ってきた通路を戻る
扉を開けるとユニフォームからジャージに着替えた大也くんがいた
「間に合った」
私の手に包まれている箱を確認してそう零し、私の手の中から小さな箱を取り上げる
「折角なら俺がはめたかったから、みんな置いて1人で急いで帰ってきた」
扉の内側に入り、私を後ろからすっぽりと抱きしめる
私から見やすい位置で箱を開ける
キラキラと光を反射する大粒のダイヤとそれを引き立てるようにあしらわれた控えめなダイヤがいくつもついたエンゲージリング
「俺が一生をかけて杏さんを愛して守るって約束する」
それを右手の指でつまみ上げ、左手で私の左手を持ち上げ薬指に通していく
私の左手の薬指でキラリと光るリング
バツイチで暗黒時代に囚われていた私をすくってくれた大也くん
元旦那の裏切りで男なんて信じるもんじゃないって思ってたけど
大也くんといると明るい未来しか想像できない
もう一度だけ
最後にこの人を信じ抜こう
fin(2017.04.15)