運命なんてありえない(完結)
「あぁ、ごめんなさい。犬が苦手なんですね。」
そう言って胸元に抱いていたクロを片手で自分の背中に隠してくれた。
ほっと息をつく私の頭上にクスッと笑う声が聞こえ、顔を上げる。
「やっとこっち見てくれた。」
そう言って見せられた殺人的な笑顔……どストライクです。
「クロが怖がらせちゃってすいません。うちの主将の犬なんですけど、よく脱走するんです。」
再度の謝罪とクロの説明を受け、「はぁ…」と曖昧な返事しかできずにいると
「あっ!その袋!」
突然クロを抱いていない方の手で私が抱えている袋を指さした彼にまたもやビクッとなりながらも、首をかしげる
「社長の写真ですよね。社長もう来てますよ」
ニッコリと笑い私の横に並び、クロを私とは反対側の腕に抱き、入口の方へ私を促す。それに従い彼に並んで歩を進める。
彼の言葉の通り、私が胸に抱えている商品は写真だ。正確には社長の娘さんの写真。
私は高校の頃から写真を撮るのが好きで、大学を卒業して新卒で今勤めているチェーンの写真館に就職した。
仕事ではスタジオで休日には外で気の向くままにカメラ漬けの生活は楽しい。
離婚後に今の店舗へ異動となり、ここの社長の高梨様に出会いなぜか気に入って貰え、毎回ご指名を頂いている。
本来なら商品は店頭での受け渡しだが、高梨様は大口の常連さんでお届け先も店舗から近いということで、店長から特別に許可が出ている。
「どうぞ」
扉を開けた彼から掛けられた声にハッと我に返る。
このグランドの横には選手のための寮となる建物…寮と言っても10階建てのマンションのようにでかい建物があり、1階はロビーや控え室や売店などがあり、2階にミーティングルームやトレーニングルームがあり、3階より上が寮になっていると前回来た時に高梨様が説明してくれた。
ここに来るのは2回目だけど、やっぱりでかい。
前回はラガーマンはミーティング中とかで見かけなかったけど、今日はこれから練習なのかロビー内にラガーマンが多数寛いでいる…というか社長の高梨様と談笑している。
「社長ー!日下さん来ましたよー!」
彼は談笑中の塊にさすがラガーマンと思える程に声を張って言うと、その中の1人の元へ寄っていった。