運命なんてありえない(完結)
その日は珍しく練習前から社長が来ていて、ロビーのソファでみんなで話していた
「あぁ、大也、今日は写真の受け取りをここでするから」
それは社長からの「日下さんが来るよ」というメッセージだった
「ありがとうございます!」
心の中で激しくガッツポーズをする
「クローーーーどこだーーーー!」
そんな俺の喜びに水を指すように、キャプテンが飼い犬の名前を呼びながらロビーへやってきた
「クロまた脱走したんですか?」
呆れたように他の先輩が聞くとコクコクと頷くキャプテン
仕方ないなぁ…ラグビーしてる時はあんなにかっこいいのにプライベートが抜け過ぎている
「俺、外探してきますね」
ここで日下さんを待っているのも落ち着かなさそうなのでクロを外に探しに出ることにする
グランドの周りをぐるりと道路が通っていて、そこまで多くはないけど車が通ればクロの身も危険だ
小走りでグランド周りの道路を回る
「ワンッ」
最後の角を曲がる直前にクロの声が聞こえた
その角を曲がると声の主とその手前に女性の姿…日下さんだ!
急いで近付いてクロが逃げてはいけないので、ゆっくりと近付く
「ワンッ」
「ひっ」
再びクロが吠え、1歩後ずさる彼女
犬が…苦手?
「ハッハッ」と尻尾を振るクロを見て、もう1歩後ずさる彼女が俺にぶつかる
ヤバイ抱き締めたいなんて衝動を抑え
「クロ、探したよ」
不審な人と思われるのは嫌なのでクロに声をかける
俺にぶつかったまま固まってる彼女
長年待った彼女が接していることに嬉しすぎて動きたくない
「ワンッ」
再度クロが吠え、胸の中にいる彼女がビクッとなった
名残惜しいけれど、彼女から離れクロを抱き上げる
「すいません、コイツが道を塞いでしまっていたみたいで」
ペコリと頭を下げて微笑む
俺の勝負がやっと始まった
待った時間を無駄にしないためにも、この勝負に勝たなきゃ意味がない
「いえっ、と…っとんでもないです」
赤く染まっていく綺麗な顔に可愛すぎてキュン死にしそうです