運命なんてありえない(完結)



顔を俯かせたまま動かなくなったので「大丈夫ですか?」と覗き込む


彼女の目が俺の抱くクロを捉え、「ひっ」と後退りされる



「あぁ、ごめんなさい。犬が苦手なんですね。」

それも相当…

胸元に抱いていたクロを片手に乗せて自分の背中に隠す


ほっと息を吐いた彼女に思わずクスッと笑みをこぼす


顔をあげる彼女に「やっとこっち見てくれた。」と笑みをこぼす



クロが怖がらせてしまったお詫びとクロの説明をすると「はぁ…」という曖昧な返事が返ってきて少し困った顔をしている


そんな表情ですら可愛いと心の中で悶える俺は重症のようだ


この5年間で俺の成長と共に彼女への想いは大きく大きく膨らんだようだ



彼女の胸に抱かれた社長へ納品されるだろう写真が目に入り、彼女と並んで歩くきっかけを見つけたと心の中でガッツポーズをする



「あっ!その袋!社長の写真ですよね。社長もう来てますよ」と声をかけ彼女の横に並び彼女を入口に向けて促す


入口までほんの50メートル程だけど、彼女の隣を歩く喜びを噛み締める



隣を歩く彼女は何か考え込んでいるようなので、存分に近距離からの彼女を観察する



入口の扉を開け「どうぞ」と声をかけ彼女と共に中へと入る



「社長ー!日下さん来ましたよー!」

社長に出会いは上手くいったことを暗に伝える



キャプテンにクロを渡す

よく脱走して迷惑な犬だけど、今日ばかりはこの小さな天使に感謝だ




チームメイト達が興味津々といった目で彼女に注目する


さすがに俺の想い人と知って手を出すような人達ではない…と思いたい



そうこうしている内に練習の時間となり、キャプテンが号令をかける









「ワンッ」




ウォーミングアップも終わりがけの頃、観客席にいたクロが吠えた先に彼女の姿を見つける




フェンス越しでもかなりビビっている様子の日下さんを助けるべく急いで観客席へ上がる



「クロー!日下さんをビビらせないの!」

クロを抱き上げ「めっ」と言って背中に隠す



彼女に目をやるとポカンとしている


初対面の俺が名前知ってるのが不思議なのかもしれない


そうやってたくさん俺のことを考えてくれたらいい



「俺は酒井大也。また近々会うと思うんで、よろしくね、日下杏さん。」



社長が動き出したということは、まだ何か仕掛けられているはず



俺は下の名前も知ってるよよアピールもして、キャプテンに怒られる前にクロを連れてグランドへ戻る





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