運命なんてありえない(完結)


数日後、吉野さんから伝えられた高梨グループのホームページやリーフレットなどの宣材用の写真撮影に彼女が来るということ


しかも昨年末のワールドカップでの活躍もあり、ラグビー部での撮影もされるとか



この『チャンス』逃すわけにいかない







撮影当日は朝からそわそわしていた


隣の席の先輩に「何そわそわしてんの?」って言われるくらい出ていたらしい


「今日の撮影が気になって…」


俺の言葉に先輩がキョトンとしている


俺今そんな変なこと言ったかな?


「酒井でもそうゆうの緊張するの?」


あぁ、そういう意味か。



ワールドカップあたりから取材を受けることも多々あったので、撮影自体にはそんな緊張はしてない

「まぁそんなとこです」


わざわざ日下さんの話をすることもないので、そういう事にしておく



「ここは最後の方だからまだまだ来ないだろ」



先輩にそう言われ意識を仕事に集中させる



自慢の集中力も長くはもたず、気分転換にコーヒーでも飲もうと席を立つ





談話ルームの入口の自販機で橘がコーヒーを買っているのが目に入り声をかける



振り返った橘に「俺にもコーヒー」と言って橘が持っていたコーヒーを奪う



カシャというシャッターの音が聞こえたので音のした方を振り返るとカメラを構えた彼女がいた


あれ?橘がコーヒー買ってたからてっきり休憩中かと思っていた



「杏さん?あ、すいません撮影中でした?」



彼女の後ろにあの広報の女が目に入ったので、日下さんこそ特別な人なのだと知らしめるために敢えて下の名前で呼ぶ



下の名前で呼ばれ赤くなっていく彼女を見てこれからも下の名前で呼ぼうと決意する




アシスタントの女性が杏さんの持つカメラを覗き込み、「談話ルーム撮影オッケーです」と撮影終了を合図する


杏さんに近付きもう一度名前を呼ぶと「…っな…んで」と投げかけられる疑問

何を答えたらいいか迷ったけど、下の名前で呼んだ理由は言えないので無難にここにいる理由を説明する


あんまり長居するのも迷惑なので、「次うちですよね、早く来てください。」と言葉を残し、自分のデスクに戻る





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