運命なんてありえない(完結)
食堂の入口で回数券を渡し、いつものようにお皿に取り、橘を探す
窓際でキャーキャーと盛り上がっている6人掛けのテーブルに橘と河本が並んで座り、その向かいに杏さんと佳香さんが並んで座っていた
杏さんの左側が空いていたので、迷わずそこに座ることを決める
佳香さんが「おかわりとってきまぁーす」とそそくさと席を立っていった
近付いていくと会話も聞こえてきた
「大学卒業してすぐ結婚したけど、2年前に離婚したんです」
「じゃあ今はフリーですか!?」
「ええまぁ…」
「じゃあ大也にもチャン―ぐっ…」
河本に肘を入れた橘と目が合った
「大也はスポーツ科学部でラグビー部だったんですよ」
俺が登場しやすいように話を振る
できた親友に感謝だな
「へぇ…ということはラグビー場で練習してたってこと?」
「そうですよ」
杏さんの疑問に自ら答え、当然のように隣の席へ座る
「大也遅ぇよ」
「悪いあの人撒くのに手間取った」
昼休みに入りまたあの女が来たことを知らせる
しかし、せっかく杏さんとの時間を作れたのにあの女の話題を引っ張るつもりは無い
せっかく大学の話をしてたみたいだから、まずは思い出してもらおう
「杏さん」
俺の呼び掛けに小さく「はい」と返事をして怯える小動物のように恐る恐るこちらを向く杏さん
やべぇキスしてぇーー
欲望を抑え込み話そうとしたその時
「日下さん!!」
食堂に響き渡るあの女の声
「社長がお待ちですよ!」と杏さんを連れて行く女
社長ならそこの観葉植物の陰で飯食ってるよと思うけど、杏さんが抵抗してる風ではないので口は出さない
「佳香、ゆっくり休憩してて!社長室はアシなしでいいから!橘さんご馳走様でした!」
腕を強く引っ張られながらそう言葉を残し杏さんは連行されていった
吉野さんが追いかけようと席を立ったが、社長がそれを制し、自らが様子を見に追いかけていく