運命なんてありえない(完結)
キャプテンが席につき、すぐに社長達が入ってきた
プレー中もそうだけど、キャプテンには千里眼が付いてるんじゃないかと思うことが多々ある
杏さんと佳香さんから撮影の流れなどの説明を受けグランドへ移動する
グランドへ出る下駄箱のところで杏さんが持ってきたはずの靴を食堂に忘れたという話を聞き、俺は急いで自室に戻り、昨日買ったばかりのスパイクを箱から取り出す
女性には大きすぎるけど、爪先側からキツく紐を締めていけば歩くくらいは可能だろう
靴の爪先に入っている餡子を取り出して手を止め、また靴の中に戻す
女性の足なら爪先5センチは余るだろうから、餡子が入ったままの方が安定するか
急いで戻ると下駄箱にはもう誰もいなくて、外に出るとコンクリートから人工芝に変わるところで恐る恐る足を踏み出そうとしていた
間に合った
人工芝だからチクチク痛いってこともほぼないけれど、滑った時に軽い火傷のようになることはある
「杏さん!」
俺の呼び掛けに驚いたのか、ビクッとなり「はいっ!」と出しかけていた足を引っ込める
こちらを伺う彼女に「これ使ってください」と持ってきた新しいスパイクを差し出すが、杏さんが大人しく受け取るとも思わないので、無理矢理履かせることしよう
予想通り「え…でも」と言ってる彼女につい笑みがこぼれる
「これ今度の試合終わったらおろそうと思って昨日買ったばっかの新品なんで綺麗ですよ。ちょっと大きいですけど…」
断れないように新品アピールも忘れない
彼女の足元にしゃがみ込み、足を入れやすいようにスパイクの紐を緩める
「スパイクって他の人に履かれるの嫌なんじゃ…」
この後に及んでまだ躊躇っている杏さん
よく知ってますね。他の奴なら絶対に履かせない。俺の足の形に合わせた特注だしね。
「杏さんは特別。杏さんが履いたスパイクならもっと速く走れる気がする」
これは本当の気持ち。
焦れったいので杏さんの足を掴みスパイクに収め、爪先から紐を締めていく。