運命なんてありえない(完結)


もしかしてと思い、目の前の杏さんの右腕を掴み持ち上げる


「痛っ」


予想通り痛がる彼女


失礼を承知で右腕の袖を少し捲ると、あの女に掴まれていたであろう箇所が青く掴んでいた指の形でくっきりと内出血をしていた


「すいません、俺の不用意な行動のせいで…」


俺があの女に見せつけるように「杏さん」と呼んだばっかりに彼女の大切なカメラを持つ腕を痛めさせてしまった



「酒井くんのせいじゃないわ。あの時、振り払うこともできたもの。」


きっとこれは彼女の本心


けどあの時すぐに俺が助けてたら?休憩が終わるまで隣でしっかり守っていたら?




「犬からは守ってくれるんでしょう?」



三脚にカメラをセットしながら、俺を救うための一言をくれる優しい女性


「もちろんです」


これから先は誰にもあなたを傷付けさせない





「ワンっ」



「きゃー可愛いー!!」


クロを連れたキャプテンに真っ先に駆け寄りクロをワシャワシャする佳香さんにやっぱり犬好きかーいと心の中でツッコミを入れる


クロを抱いたキャプテンを杏さんに近付けないように誘導して、杏さんがシャッターを押すとさりげなく前へ誘導する姿はさすがプロだと思わずにいられない


「はいオッケーです」

終了を告げる杏さんに

「え?もう?まだポーズ取ってないよ?」

キョトンとするキャプテン

クロにデレデレ過ぎて撮られていた事に全く気付いていなかったらしい


「バッチリいい笑顔撮れてますよ〜」の杏さんの言葉に堪えてた笑いが限界を超え大爆笑してしまった


佳香さんが次の人を呼び、監督が緊張した面持ちでやってきた





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