運命なんてありえない(完結)

男はバァンとテーブルを両手で叩き俺を一瞥し杏さんの方を見る


男の頭で杏さんの表情は見えないが怯えてる風でもなかったし、昼に佳香さんが1体1なら杏さんは負けないと言っていたし様子を見る


男が手を出そうもんなら即行で阻止して追い出してやろう


「知らないとは連れないよなぁーあんなに熱い夜を過ごしたのによぉ」


男の言葉にこの男が杏さんが荒れていた時の遺物である事を認識する


本当に誰彼構わずだったんですね



「朝起きたらいなくなってんだもんなぁーやれれば誰でも良かったんですかねぇ」


反応のない杏さんに男が絡む


「あっ思い出した!合コンで俺超すげえとかほざいてたからホテルまで行ってやったのに酒飲み過ぎてて使い物にならなくて放置して帰った残念男!」


仕返しとばかりに杏さんが大きな声で曝す



カウンターの奥で「ぶはっ」と吹き出している大将と女将さんの声が聞こえた


俺は堪えてたけど肩が震えるのは抑えられなかった




「てめぇ!まぐろ女の遊び人がよくもそんなこと言えるな!」そう言った残念男は今にも掴み掛かりそうだ


『まぐろ女』と言われた杏さんも応戦しようとしたのか立ち上がりかけた


「はいそこまでね」と言って男の腕を捻り上げる


「いててっ何しやがるっ」と男は抵抗してきたが、ちょっと言い過ぎちゃったよね



「黙って聞いてようかと思ったけど、聞き捨てならないことが多すぎて、訂正と補足してあげるよ」


まだ抵抗を試みる男の腕を更に捻る



「まず『遊び人』だなんて言うけど、そんな時期誰にでもあるでしょ?本当の杏さんは一途でとても真っ直ぐな人だよ?」


杏さんはきっと元旦那のことを一途に愛していた


だから裏切られ別れを告げられて荒れに荒れたんだろう


それにカメラに対する愛は5年前のあの日から何も変わっていない


好きだから日々勉強し試しを繰り返しているに違いない


そんな人だからうちの社長も惚れ込んでるんだ



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