運命なんてありえない(完結)
「それから女性は男が感じさせるものだよ?独りよがりで『まぐろ』だなんて口にしちゃうなんて下手すぎでしょ」
そんなの男として当然でしょ?
どんだけ下手なの?
「わかったら出口はあちらでーす」と入ってきた引き戸を指し示し、残念男の腕を解放する
悪役らしく「ちくしょう」というセリフを吐いて出ていく男に大将が出禁を命ずる
その後は楽しく食事をした
『くん』付けではあるが名前で呼ばせることもできた
食後にサービスで出てきた苺のムースを食べ終わる頃、俺は片想いを実らすべく話を始める
「俺ね大学入ったばっかの練習試合で杏さんに『走れー諦めるなー』って言われてなかったら、今の俺はないと思ってる。」
杏さんの表情から5年前のことを思い出してくれたんだと推察する
「あの言葉に俺はウィングだから走らなきゃ…止められるならもっと速くって思えたんだ。」
「あの時のあの言葉でその後の4年間、在学中に必死で基礎体力つけて、筋力アップもして、スピードも持久力もパワーもウィングの中では誰にも負けないって思える程になるまで成長できた。
一つだけ思い通りにいかなかったのは当時の杏さんにはラブラブな彼氏がいて、結局一言も話し掛けられなかったこと。杏さんの名前だけ橘から聞き出すことはできたけど…」
拓さんもいたしね…と心の中で付け加える
「ん?ラブラブな彼氏がいたのは事実だけど、彼は年上だったし一緒に大学を歩いたことなんかないけど…」
疑問を口にする杏さん
「え?いつも一緒にいた男の人は?」
拓さんと繋がりがあるのは知らないはずなので、敢えて俺も知らないフリをする
「あーあれは友達!それ以上も以下もない!向こうも同じことを言う、断言する!」
杏さんが笑いながら言うその言葉に吹き出しそうになる
うんうん、拓さんも初めて会った時に同じこと言ってたことを思い出す