運命なんてありえない(完結)
「あっそういえば!」
起き上がり再びポケットを探る
「今度の週末は遠征だから、はい!ちょっと早いけどクリスマスプレゼント」
ポケットから出した包みを杏さんの手の上に乗せる
「ありがとう」と丁寧に包みを開けていく杏さん
「これ…どうして…」
その反応に間違いでなかったと確信する
「前に来た時に熱心に雑誌のその時計のページを見てたからかな」
俺が隣にいることを忘れるくらいに熟読していた
前に杏さんに腕時計を腕にせずジャケットのポケットに入れてる理由を聞いた時、彼女は適当に誤魔化してたけど、彼女の性格からして元旦那から貰ったもので腕にしたくないんだろうなって思った
彼女の手の中から箱を取り上げ、腕時計を取り出して箱をローテーブルに起き、彼女の左腕に腕時計をはめる
俺から贈る腕時計ならいつでも腕にしてられるでしょ?
「大也くんありがとう」
改めてお礼を言って杏さんはソファから立ち上がりテレビボードの引き出しを開ける
「え?それ…」
まさかすでに自分で買ってたとか…?
「これは大也くんに私からの少し早いクリスマスプレゼント」
「これ…」
渡された箱を開けると俺が先程彼女の腕につけた腕時計と同じモデルのメンズライン
まさか熟読していたのは自分用ではなくて俺用?
「デザインは大也くんが言ったように私が気に入ったものなんだけど、本当はペアで買うつもりだったのが先月カメラのレンズを壊しちゃって買い替えたから足りなくなっちゃって…まさか同じもの貰えるとは思ってなかったから嬉しい」
俺がしたのと同じように俺の手から箱を取り上げ俺の左腕にその時計をはめる
この人は決して俺に頼らない
欲しいものがあるなら俺に言ってくれれば俺は喜んで買うのに
デートの費用は男として俺が払うのを譲らないけど、杏さんが自分の物を買う時は1円たりとも出させてくれない
俺は年俸とスポンサー料でかなり稼いでる方だと思うし自分で使うこともほとんどないから、今、預けてる銀行が潰れたら俺の稼いだお金ほぼ消えるななんて思うこともあるくらいだ
それでも譲らない彼女は本当に『自分』というものがしっかりとある人だと思う