勘違いも捨てたもんじゃない
一緒に下りた。
車はどこだ?…あの場所か?
「あぁ…車は裏の駐車場だ」
鍵を渡された。
「はい、解りました」
何?強引に一枠、住人でも無いのに契約でも取り付けたのか?
あぁ、あった。同じ場所だな…。
夜風に吹かれ、足元でサワサワと銀杏の葉が軽く流され、舞う。
後ろのドアを開けて浩雅を乗せた。座った途端、力が抜けたようにシートに沈み込んだ。確かに疲労の蓄積、ピークだな。
「では帰りましょうか」
「…ん」
…。
車を出した。
「寛いでいたところを悪かったな」
ああ…これのせいか。俺は部屋着のまま来ていた。タクシーを拾う為、辛うじて財布と鍵を持ち慌てて飛び出した。気が付けばまずい事に携帯すら持って来てはいなかった。連絡が取れなかった場合、ヤバかった。当然改めてスーツなんか着ている場合じゃなかった。
「いいえ、一応…仕事ですから」
家に帰れば風呂にだって入る。当然着替えもする。咄嗟に備えていようと、寝ても覚めても…四六時中スーツで居る訳じゃないんだから。
「これは武蔵にとって仕事なのか、…そうか」
何が言いたい。念押しか。…解ってはいるけど。
…。
ん?もう寝たのか。
ルームミラー越しに見た。瞼は閉じている。…寝ているかどうかは解らない。
こんなに疲れるまで、そんなにあのカフェは意味のあるものなのか…。プライベートな時間で動けるのも限りがある。結局、会議にかけた結果、会社としては無し、という事になった。悪くは無い。だけど、やるなら利益は多くあった方がいいに決まってる。赤字にはならないにしても、その程度のモノを造る必要は無いという事だ。あの場所は利用者が増えていくというのは期待できない場所。至極当たり前の判断だ。
だからあのカフェは浩雅個人のもの。会社は一切関係無い。資金は浩雅の私財だ。会社としては無いとなっても、どうしても造りたいらしい。…役員達には趣味の店とでも思われてしまったかも知れないな。
もう、着く。
ブー、ブー、…。浩雅の胸で携帯が震えているようだ。…。
「若、若、着きました」
…。
「…ん?…ん、……寝た」
「一人で上がれますか?」
「ああ、大丈夫だ心配ない」
…。
「しっかり休んでください、明日は何もありません、休みです」
「解ってる」
だから行ったのか…。