勘違いも捨てたもんじゃない
頭の中でぼんやりと声が聞こえ続けていた。
大丈夫か、…が繰り返されている。今……夢の中…?と…現実?どっち?……ど、こ?
ぼんやりとした景色の中に人の顔が見えて来た。ん…ん…。
「痛っ…ん、痛、い…」
擦れ合う脚が何故だか痛い。
「あ、悪い、大丈夫か?」
…安住さんの声。目の前からする。……ん。ん?!
「安住さんっ!」
「ああ。…気がついたか」
ムクッと起き上がったら長い腕に戻された。
「寒いから入って」
「あ、すみません。あの、何故、私…ここに…あっ!」
「…納得できたかな?」
「はい。あ、でも、だからって、一緒に寝てるのは…」
「ベッドが一つしか無いからだ」
「はい。え?…あっ」
また起き上がった。今度は布団をちゃんと戻して正座した。
「あの、危ないところを助けて頂いて有難うございました。まさか。はぁぁ…思いもよらない人間が突然現れて、なす術も無く、あんな事に。とにかく危ないところを…。有難うございました」
「何とか間に合って良かった…」
安住さんまで上半身を起こしてしまった。
「あー、裸は寒いです。入って、ワー!キャー、…キャー!」
…慌てて自分のバスローブを安住さんに掛けようとして、解いて広げたら裸だと言う事に気づかされた。だから、ワーキャーしたのだ。安住さんは上半身裸。それでバスローブを広げて包んだから、裸で密着してしまった。それが最後のキャー…。気が動転した…事故だけど直に触れ抱き合ってしまった。…故意ではないけど。
「フ。別に構わないよ、私はこのままで。あー、離れたら見るよ?」
…いや、…いやいや、これ着せてくれる時も見てるはず。それは色々とお世話をしてくれたのだから仕方ないけど。…冷静に。離れながら前を隠した。
「潔いな、既に拝見済みだと気がついたか。…ずっと裸で抱きしめ合えられなくて残念だ」
また布団の中に戻った。私もまた引き込まれた。
「大丈夫か?痛いところはないか?随分、脚に傷があるようだけど、転んだのか?痣になりかけてるのもあるが…」
さっき痛かったのは安住さんの脚と絡んでいたからなのね…だから謝ったのね。
「はい、目を塞がれて見えなかったけど、とにかくあの場所から離れようと思って、闇雲に駆け出したから、直ぐ転んでしまって」
…ん?離れよう?逃げようではないのか?
「離れよう?」
「はい、あ、勿論、逃げる為もあって、自分では外に向かって走ったつもりでしたが、バランスが取れなくて地面の凸凹にすぐ足を取られてシートが絡まって…転んでしまいました。あの場所で事件になるような事が起きてしまってはカフェはオープンできなくなってしまいます。例えオープンしたとしても、…あんな事があった場所だと噂になります。…例え殺人現場でなくてもです。お店に来た人の話題がそれになってしまっては…折角、形に成りかけているものが、こんな事でポシャッてしまっては駄目だと思ったから」