勘違いも捨てたもんじゃない

「思い出したくないだろうけど、あの男のした事、警察に届けなくていいのか?何なら、身体の傷とか、病院で診断書とか出して貰っとくか?」

「これは…、自分で逃げてできた傷ですから…」

「そうか。しかし…。でも、ここに、内出血の跡、付けられてる。破かれた服もある。精神的苦痛はある、暴行未遂で訴える事もできる」

「…見てはいませんでしたけど、聞いていました。安住さん、かなり、…正当防衛以上の事、されましたよね?」

「…ん、…まあ」

「相当、やっつけてしまいましたよね?」

多分、ボコボコにだ。間違いない。

「…まあ、な」

「震える声でもう二度と来ないって言ってたようですし、大丈夫だと思います。甘いですか?」

「甘い!でも…、あいつがもしまた来るような事があったら殺すって言ってあるから、まず来れないな」

…そう、あの暴言は別人じゃ無いかと思うくらい恐かった。

「恐かったです」

「ああ、嫌な思いをしたな」

「安住さんが恐かったです。あの部分だけ聞いたら充分恐いです」

「…私がか?」

「はい」

「フ」

…鼻で笑われた。でも、声で安住さんだと解って安心はしていた。…あ、恐いと言ったから、何だかショックを受けてるかな…。

「あ、あの、色々音がした後、近づいて来て、係長では無いだろうとは思っていても、見えなかったからちょっと不安でした。でも香りがして…それで安住さんだ、良かったと思って…安心したら意識が飛びました」

「口を塞がれて、目も遮られて、腕も縛られて…服まで破りやがって。挙げ句、…触れやがって。半殺しで済んで有り難いくらいの事だ」

半殺し?!…今、恐いって言ったばっかりなのに。反対に、よく生きて逃げたなって思うと…安住さんやっぱり恐い、固まりそうです。

「あ゙ぁ思い出した。くそ、あのやろう…殺す」

…出くわさないことを祈るわ…。あ。胸元に触れられた。

「少しでも嫌なモノ、早く消えたらと思って馬油を塗っておいた。血行を良くすると消えやすいんだろ?…これって」

常備されているということは安住さんが使用することがあるってことですよね。効能も知ってる。それ以外ないでしょ?…頻繁にお困りなのでしょうか…?

「……ば、馬肉とかもいいって、聞いた事あります。…有難うございます」

…安住さん?…あ、…え…ぁ。バスローブの衿元を少しはだけられた。顔が…侵入している。

「え、あ、……い、たっ…」

安住さん…?

「…強過ぎたか。痛かったか?…思い出したら腹立たしくなったから俺のに変えた」

変えたって、サラッと……合わせを元に戻されたから私には見えない。…多分、係長のモノの上に上書きされたんだ。安住さんの唇が柔らかく触れ、暫くチクチクと痛みが続いたから。

「…あ、悪い。クリーム塗った意味が無くなった。また後で塗るか…」

…もう。…いいです。

「…大丈夫です、誰も見ませんから」

「武蔵は」

…ぁ…それは…。会えば…まず直ぐ見つけてしまうだろう。
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