勘違いも捨てたもんじゃない
「……安住さん…眠くなって来ました…」
段々気が抜けて来たのかも。張り詰めていた反動かも知れない。…二人で居る布団の中は温かい…。
「ん…俺も。…寝るか」
「…あー、は、い…」
んー、それは、まあ。…何ともなんだけど。
「今回は俺が頭撫でてやるよ。…頑張ったから」
ぁ…抱きしめられてしまった。私の腕は安住さんの身体に回すようにされた。……これは、平然としていてはいけないのだけど…。疲れた…。
「相変わらず…、ドキドキが半端無いな…」
「……男の人と抱き合ってますから、それが普通です」
「…そうか。今回は素直に言うんだな…」
「え、そうですか…?…」
意識をそこに持って行かそうとしないで欲しい。
「…そうだよ」
「気を遣って言ったかも知れませんよ?」
「いいや、はっきり解るじゃないか。こんなにトクトク早くなっているのに、それはないな。身体は正直だ。君はある意味純粋だからな」
…こうして一緒に居て、このまま、できるなら、欲しいと思ってる事、少しは感じ取ってドキドキしてくれていると思ってるよ。
「安住さん、最初、髪、シルバーだったじゃないですか。もっと、おじ様、…年上かと思いました、丁寧だし凄く物腰も柔らかで紳士でしたし?」
上手く話を変える、賢い女性だ…。
「でした、ということは今は違うんだな」
「あー、それは、ね?そこそこ、変わってきましたよね?」
まあ、こんな状況に持ち込むくらいだからな。
「最初はいくつくらいに見えた?」
「んー、十個くらい上かな?って思いました」
「では45くらいか?」
…初老だな。ハハ。
「んー、良く解りません、もっと上かも。雰囲気年上、みたいなおじ様です」
…あれ?私の年齢いつ教えたっけ…?全然覚えてない。
「フ、何だか解らない話だな」
「…はい。でも、黒髪を見た時は、逆に若返ったような気がして…幼く、可愛く見えました。
あ、可愛くはちょっとニュアンスが違うかなぁ…」
…。
…。
ギュッと抱きしめて頭を撫でた。こうして居ると、不思議と俺も同じ感覚になる。癒し、という感覚か。
「あ、安住さん、手、痛めて無いのですか?」
不意に頭に置いた手を取られた。
「あ、やっぱり…こんなに…」
名前は知らないけどグーにしたら出る骨の辺り、内出血している。…力を込めた…ということだ。
「あんな音がしたくらいです。綺麗な手が、こんなことに…。私がクリーム、塗ってあげます」
手を伸ばして馬油を取ると、蓋を開け指に取り、クルクルと塗られた。
「はい。痛みは無いですか?」
あ、また看護師みたいになってしまった。
「あ、ああ、…大丈夫だ。見た目程痛くはないんだ」
痛みは言われるまで意識がなかった。触れられて初めて痛みを感じたようなものだ。思いっきり殴ったからな。
「では、はい、おしまいです」
…何だ今のは…反則だ。想定外の事が起きた。
「…私も、お礼に。…なりますかね…」
ギュッとして頭を撫でられた。…何、だ?すすんで自分からなんて、俺は要求してないぞ…。
「強かったですね。助けてくれて有難うございました…」
何だ、その物言いは…子供扱いか。お、あ。抱きしめられたぞ。
「フフフ。今日はずっと…こんな風に交代に抱きしめ合うんですかね…」
…何を考えている…少し落ち着いたとはいえ妙なテンションになってるようだな。何も考えてないからできてるんだな、こんなこと。
「安住さん?」
「あ、あぁ…そうだな…」
何がそうだな、だよ。何を答えてるんだ俺は。反則が過ぎるじゃないか。手を握られた。クリームを塗った後で綺麗な顔で俺をじっと見た。頼んでもないのに俺を抱きしめた。無意識だとしてもだ。ここでは主導権は俺だ。想定外だ。はぁ、馬鹿、何て事してくれてるんだ、ドキドキが半端ないぞ。