勘違いも捨てたもんじゃない
…白うさぎ。ベッドで布団を掛けて寝ている。
すっかりここがこの子の居場所になってしまった。ここか、ソファーだ。……何だかな~なんて思いながらも、言われたように、まんまと白うさぎを抱き枕にして寝てしまっている。抱いてしまうと何だか馴染むのよね。ソファーに居るときも膝に乗せ抱いてしまう。うっすらと付いていた安住さんの香りは無くなって、私の、多分、ボディクリームだとかボディソープの匂いになっている。ぬいぐるみに罪は無いから、ずっと抱き枕。……寂しいから。いつも手を伸ばして抱いてしまう。
ブー、ブー、…。あ、携帯が鳴ってる。
【ショックだ】
あ、…何だか、いつもの安住さんね。何にショックなのかしら。もしかして、やっぱりこれかな…勝手に拝借したから。……もう…、別のワイシャツだっら良かったのかな…。
【黙ってすみませんでした、お気に入りのでしたか?】
【お気に入りだ、一番の。他では駄目だ】
あ゙ー、私的には特別選んだつもりはなかったんだけど。これ極普通の物では?…でも質は最上級なんでしょうね…。
【ごめんなさい】
【もう取り返せないのか?】
え?そんな…このまま貰うつもりはない。返しますよ必ず。
【全然返せますよ?綺麗にしてからお返しします】
【そのままでいい】
え゙…もしかして、面には出さない……変態ですか?…匂いフェチとか、ですか?……とは、思っても恩人には言えないか。…だったら着てそのまま置いてきたバスローブ…今頃危ないかも…。
【洗ってからで無いと嫌です】
当たり前でしょ?!そのままなんて無礼な…。
【洗うなら俺が洗う】
はい?そんなにしてまで…、このままで必要?
【そんなにすぐ必要だったのですか?】
【ああ、必要だ。手放したくない】
あちゃー。別のにすれば良かった。あんなに沢山あったのに。なんで選りに選ってこれを選んでしまったのか。どれなら良かったのか、聞いてからにすれば良かったかも。でも聞くと帰れなくなるから起こさなかったのに。…直ぐって、いくらなんでも…困ったな…。
ピンポン。
…え゙?!…安住さん?まさか、取り返しに来たとか?……もう?
あ。やっぱり…安住さんだ。
「…はい」
「開けてくれ」
「…はい」
開けるけど…開けた途端、身ぐるみ剥がされる?
ピンポン。
来た。
「はい」
「高鞍真希、取り返しに来た」
「いや、まだご覧の通り着たままですし、あの、どうしてもって言われたら脱ぎますけど…クリーニングしてからに…」
「武蔵には渡さない」
「え?…はい?」
はい?
「もう義理立てするのは止めた」
義理立て?シャツの義理立て…。何らかの理由で借りてたってこと……?はい?
「…武蔵さんのだったんですか?」
「君は…あいつのものなんかじゃない。…違う、俺のだ。丸ごと俺のものにする」
「え?はい?……はい?」
「高鞍真希、好きだと言っただろ」
「え?は、い。え?は、はい」
聞きましたけど…。
「好きだと言っても、胸の高鳴りとは別に、普通の事を普通に楽しくも話せる」
……胸の高鳴り…?
「君は面白い女だ。私は、いや、俺は抱ける。魅力的で面白い君の事を強く抱きたいと思う。ときに楽しい友人でもある。だけど女でもある。だから抱ける。抱きたいんだ」
抱けるとか抱きたいんだとか連呼して。
「ちょ、ちょっと待ってください」
…朝から…何?面白いとか、抱けるとか、…女だとか。…何?この人も、今、疲れ過ぎて正常じゃ無いのかも。これ…ワイシャツは?
「とにかく上がらせて貰う。ワイシャツは今から俺が脱がす」
はあ?!
「え?!ちょ、ちょっと。ちょっと、キャ、嫌、下ろして、ちょっと。下ろしてください」
脚をバタつかせ、背中を叩いた。どうして、こんな……担がれるのよ。