勘違いも捨てたもんじゃない
…俺は解らなくなってたよ、真希のことが。真希、…本当だな。会わないと恋しくて何だか話したい事があるようで、でも、こうして会っていると、顔を見た途端、大した話なんて無いんだと思って話さなくても良くなる。話したいのは日常の事。会ってたわいない話をする。それを面白可笑しく二人で話す事が、きっと楽しくて…だから話したいのだと思う。会いたかったと言ってくれた…真希…。
プレゼント、開けて見ようか。
いいって言ったのにな…。
床のライトの淡い明かりの中、リボンを解き包装を剥がして開けてみた。革の手袋だ。
…カード。『お誕生日おめでとう。これから寒くなります。仕事中、車の外で待つ事があったら使ってください。やっとお姉さんと同じ歳になってくれましたね』
あ、ハハ…真希、ちょっとお姉さんって事、気になるんだな。そんな事、何でも無い、同い年なのに。…こういう事、その時その時で話したいんだよな。有難う、真希。考えてくれたんだな。手袋、嬉しいよ。大事に使うからな。って、これも直接言わなきゃな。…真希、起きないかな。
……起こしてもいいだろ。
「真希ぃ、真~希ぃ。おーい、真~希ぃ。起きろー」
身体を少し揺すった。…、パチッと音がしそうなくらい、いきなり目を開けた。
「おっ」
「フフフ。実はウトウトしながら起きてました。独り言聞いてました」
「…なんだ。じゃあ、話さなくていいな」
「今の話は聞いたからいいけど。あのね、ちょっと前、…女の人と居るところを見掛けたの、休みの日。あの人は、武蔵さんの彼女?」
彼女だと?どんな気持ちでそんなことを聞いてる…会わない理由は、俺が新しい女を作ったからだと思っているのか?
「は?どういうつもりで聞いてる?引くような事言うな」
「だから。暫く会わなかったから、彼女ができたのかなって」
真希、冗談のつもりだろうが…。
「…あのなぁ、だったら来ないだろ、ここに。て言うか、彼女じゃ無いし。そもそも、そんな…何も言わずに作る訳がない。ムッとする」
「じゃあ…一度きりの人?」
「あのなぁ…、はぁ…いい加減にしろ…。はぁ…。そんな人をあんなとこで白昼誘ったりしない」
…。
「あぁ…いや、違う。余計な心配するなよ?言い方が悪かった。真希が居るんだ、そんなことはしない。あの人は浩雅の見合い相手だ」
え?お見合い相手…。
「初めからその気はない。どうせ断るけどな。一度ご飯だけでもって、何としてもって、食い下がる親って居るだろ?だから仕方なく形だけってやつ。俺は送って行っただけだ」
…そうだったんだ。
「声は…掛け辛かったか、あんな場面だから」
「あ、…うん。何となく…スルーしちゃった…」
「勘違いだとしても、不誠実だって、冷めたんだな、俺に」
「そうじゃないけど…」
「さっきの聞き方だと、言わなきゃずっと誤解してたって事だよな」
「んー」
あの時、そうでも無かったって言ったら、武蔵さんこそ冷めるのかな。そんな風に、簡単に思われてるんだって、私の事も、人を信用しない、そういう目でみる女なんだって…。
「連絡しない間に、真希に何も言わず、もうちゃっかり新しい女を作ったと思ったんだ。そりゃあ、よく解らない男になってしまうな。理解し合うなんてより遥か手前の話だ。信頼はない。そんな男は止めておけって俺が言うよ」
武蔵さんが来た時、会えて湧き上がった感情に流されずに、こうして落ち着いて抱き合っている。シたいだけじゃないって解った。身体だけじゃない。それだけじゃない。…シたくない訳じゃないけど。…。
「ん?」
「…あ、何でもない、です」
…瞼を閉じた。
「ん?真希?寝るのか?」
「…う、…ん」