勘違いも捨てたもんじゃない
嘘だろ…。
「…別に、寝てもいいけど、俺、誕生日なんだけど。何か…忘れてないかぁ?」
「あ、誕生日、おめでとうございます」
…。
「まあな、…有難う」
…。
「真希。…真希ちゃん?」
…。
「…もう…解った。寝てても襲ってやる」
…。
「約束だから?」
「お、なんだ、起きてるじゃないか」
「眠いけど眠れる訳無い」
…。
「じゃあ…」
「ん、…あのね」
「…ん?」
「凄い事があったの」
「…ん、…どんな」
なんだなんだ、どんな話だ?
「…元の会社の係長に襲われた」
「…ん、…はっ?はあ?…襲われたって…なんだ、あいつか!真希にセクハラしてたあいつか。おい。いつ、いつだ!どういう事だ。襲われたってどういう事だ。あのセクハラ上司…真希、襲われたってどこでだ。住んでるところ、つけられたのか。何がきっかけだ。どうして今更、そんな目に遭うんだ…」
肩を掴まれ激しく揺さぶられた。
「落ち着いてください。大丈夫、未遂だったから」
何言ってる。未遂だからって、はいそうですかって、許せる事ではない。そんなこと何故直ぐ知らせてこない…。真希だと知って狙われたってことだろ?
「落ち着けるか、そんな大変な事…。襲われたんだぞ。大丈夫ってなんだ。未遂だからって、今聞かされても…なんで直ぐ連絡して来ないんだ」
あ…。
「…ごめんなさい、大丈夫だったから、…それに、大丈夫だったら連絡はしちゃいけないような…、大袈裟にするみたいで、何だかよく解らなくて…、だから、連絡しそびれたみたいになって」
解らない訳ないだろ。するだろ普通。連絡しちゃいけないって何だ…遠慮か…?俺とは距離があるのか。俺はその程度なのか。
「迷うなよ。しちゃいけないって何だ。こっちの都合なんてどうでもいいんだよ。連絡して当たり前だろ?本当に大丈夫だったのか?未遂って何だ。また、…できなくなるようなトラウマになってないのか?俺がシたくて、できなくなったらどうするとか、そんな意味で聞いてるんじゃないぞ。真希を心配してるんだからな」
なんで言って来ない。俺は何も知らずに今日まで…。ムカつく…。
「平気。若い頃と違うみたい。図太くなったのかな。そりゃあ、恐い目には遭ったけど、大丈夫。本当に大丈夫だったから」
結果未遂だった、だからそんな風に大丈夫だったと明るく言えるのか?連絡しなかったことも、今の明るさも、俺に心配させないためなのか?なら大丈夫じゃないんじゃないのか?無理して何でもないふりをしてるんじゃないのか?
「…はぁ、本当に本当に大丈夫なのか?そんな、平気だって言っても…」
「本当に大丈夫。アイマスクされて口に粘着テープを貼られて、腕は縛られたの」
「はあ?!なんかされてるじゃないか。それで、それだけか?未遂って…決定的な事はなかったから未遂って言ったのか?」
「はい…」
「その手前迄はされたのか、どうなんだ。何をされた。なあ、どうなんだ。怪我はなかったのか。そんな事までされて、大丈夫って、…どうして言える…俺には解らないよ…」
悲しい顔をして見られた。そうよね、何をしたくても、知らなかった、できなかった。冷静に……今更聞かされてもの話よね。
「…だって…恐くて嫌だったけど、助かったから…」
…そんな話を今聞かされて…、俺は…そうか良かったな、なんて言えるか…。くそー。何なんだ…。何故言って来なかったんだ。
「……警察には届けたのか?」
「…ううん」
「あ。どうしてだ?そいつは酷い事をしたんだぞ?またされないとも限らないだろ?解んないだろ?恐くないのか?」
あ。強く言い過ぎたか…。
「もう多分来ないから」
「…そんな事、何故言える、解らないだろ?届け出るなら、詳しく話さないといけないし、嫌な気はするだろうけど。でもな?そんな奴、野放しにしておいていい訳ないんだから…犯罪だぞ」
被害届…。確かに、その通りなんだけど…。
「俺は、いつも傍に居られる訳じゃないし完全に守ることは無理だ…だからそんな目にも遭った。危ないだろ?」
「はい…」