勘違いも捨てたもんじゃない
「真希、少し寝ようか」
「はい」
「フ。相変わらず、素直に従って…はい、か。言葉遣いも丁寧語だし」
「え、だって…、変われる程、会ってないから話もしてないし。話すと自然になっちゃう…元々…恥ずかしいから」
「恥ずかしい?丁寧語は照れ隠しか?」
「そんな感じ、かもです」
「なんで恥ずかしい?」
「それは…」
いきなりの出会いから始まり、何も知らないのに、シちゃって…。武蔵さんは…よく見なくても、よく見ても、どっちにしたって男前だし。 だから、裸でこうしているなんて事も、目茶苦茶恥ずかしい事だし。顔を見つめられるとどれほど恥ずかしいか。
「何もかもです。私にとって武蔵さんは2Dの人みたいなんです」
「なんだそれ?」
「カッコイイ、コミックの主人公みたいな人。だからずっとドキドキして…恥ずかしいんです…」
漫画の登場人物に例えるなんて、精神年齢が止まってるとか、思われそう。でも、カッコイイんだからしようがないでしょ?
「ふ~ん」
頭を撫でられた。
「こんな事もしちゃってるのに?」
手が布団の中で身体に触れた。
「…あっ。そんなのは…、したからと言って、恥ずかしいものは恥ずかしいんです…なくなりません」
「ふ~ん」
頭を胸に乗せられた。適度に鍛えてある胸…ドキドキする。
「…寝よう」
「はい…」
布団をしっかり掛けられ、中では抱きしめられていた。…温かい。心も大事。こうして居られる事も大事。一緒に居るって事は、どちらもないとやっぱり寂しい…。
「こうして、できる限り居ないと駄目だよな」
…あ、は、い、…そうで、す…。私も、……今、同じこと…思ってました…。
ん?もう寝たのか?
「真希?」
スースー言ってる。寝たんだな。ごめん…疲れたか…。
瞼を閉じてみた。俺は寝られる訳もない。真希が襲われた事、それを考えたら……俺は何も知らなかった。会わなかったから様子の違いに気がつく事さえできなかった。
…はぁ。冗談なんかじゃない。仮にどこかで偶然にでも会おうものなら、…殺す。簡単には死なせはしない。痛めつけてやる。どれだけ大丈夫だと言われても、許せるものではない。経験した恐怖は完全に消えるものではない。二度と現れないなんて保証はない。視野が塞がれ叫ぶ事もできず、抵抗も。…想像するだけで胸が苦しい。真希…そんな状況でよく無事で居られたものだ。真希の脚、新しい掻き傷の跡のような薄い線や瘡蓋の跡がある。引きずられたとか……暴れたのか?……解らないよな。間違いなくこれは多分その襲われた時のものに違いないだろうけど。例えば、平手だとしても、黙らせようと頬を叩かれたりはしなかったのか…。何も詳しいことは解らない。くそっ。
何とか逃げて…逃げ切れたという事か。…邪魔が入ったか。
そもそも、そんな事をされそうな人気のないところに元々居たという事か。…どこだ。さらってどこかに連れ込まれたとは違う気がする。そんな行動は中々難しい…。何一つ解らない。
もう思い出させたくない。根掘り葉掘り真希にはもう聞けない。
………ん、はぁ、朝か…もう、ぼちぼち時間だ。起こしてくれと言っていたが止めておこう。……こんなによく寝ているんだ。…またな、…真希。