勘違いも捨てたもんじゃない

あー、居た居た。
もう一番後ろ迄来たじゃないか。

あ、やば。
あいつもデカイけど俺もそれなりにデカイ。
このままじゃ振り返られたらばれてしまう。動きそうに無いから背を向けておくか。
首を捻りチラチラと見た。

ん?男は多いが女性はあまり見えない。
あー、埋もれて見えないのかも知れない。
どうやら、お目当ての女性は乗っていなかったのかも知れない…。こんな時間に利用するくらいだ、仕事で乗っているに違いないだろうけど、平日だって休みの日かも知れないしな。

ブー、ブー、…。あ゙、携帯…。
マナーモードとはいえ煩いな…。

「…あの…すみません、ちょっと…」

ん?どこだ?

ブー、ブー、…。

「あ、あの…」

ん?下か。俺に向き合うように立ち、俯いている女性がいた。いつの間にか密着していた。

「さっきから携帯が…」

「あー、ごめんね、煩い?」

首を振っている。マナーモードにはしてるんだけどな…。

ブー、ブー、…。
ああ、もう誰だよ、しつこいな。止めるに止められないんだから。

「…当たってるんです…さっきからちょっと…あの」

「ん?」

「…胸に当たって…それで…ずっと」

「え゙っ!」

でかい声が出た…。携帯がか?
胸に当たってるだと?それは大変だぞ…。

ブー、ブー、…。

「…ぁ」

「あー、まただ。ごめん、ごめんね?悪気は無いんだけど、今、手が下ろせなくて。君、俺の上着の内ポケットに手、入れられるかな?」

「え?」

「俺の上着に手を入れて、携帯止めて。内ポケットに入ってるから。深いからぐっと手を入れてみて?」

早くしてくれないかな…。また振動すると嫌だろ。

「え、でも…」

ブー、ブー、…。

「あっぁ、…」

「あ゙ー、ごめん。ほら、早くした方がいい。君の為だ」

「…はい」

女性は中々身体を離す事ができず、手間取っているようだったが何とか俺の上着に手を入れた。

「ごめんなさい、ゴソゴソして、嫌ですよね。あ、ありました」

女性の手の中でまた震えていた。

「いや、俺はいいから、悪いけど電源切ってくれる?」

「はい。…切りました。あのこれは」

「ああ、また戻してくれるかな。…ん?」

「でも…」

あぁ、俺の身体に不必要に触れるから嫌なんだな、…俺とした事が、気配りが足りなかったか。

「あ、じゃあ、外側のポケットでいいから、入れてくれる?」

「はい、では、…右に入れますね」

ポケットの被せは内側に入れたままだった。携帯を入れると被せを出してくれた。

「片方だけ出すと可笑しいのでこちらも被せを出しておきますね」

「あ、有難う。あの、わざとじゃ無いけどタイミングというか、偶然にも当たってた場所というか、ごめんね」

「あ…いいえ、私も動けなくて。ちょっとビックリしてしまいましたが、大丈夫です、平気です。平気って言うのも変ですが、大丈夫です」

そうだよな、胸でずっと携帯が振動してるなんて、…痴漢より酷いかもな。…悪質だ。辛抱するって…なんていうか、恥ずかしかっただろうに。本当、悪い事をしたな。しかし、誰だよ…、こんな時にしつこくかけてくるなんて。
今更どうでもいいけど、凄い密着度だな…。

「いや、本当ごめ、ん…ね…」

俯いていた顔をやっと上げてくれた。
…あ……綺麗だ。いや、綺麗だし、どこか可愛い…。
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