勘違いも捨てたもんじゃない
…終わったんだ。迷いがあるまま…、好き、さようなら、なんて…。でも解ってくれたと思う。何だかはっきりさせてしまった事…辛い。…何言ってるんだろう…それが甘えだ。今のままでは駄目なんだから…。大事なモノを失うって事はこういう事…。
電車に揺られながら暗い窓に映る顔はどこかまだ切ない。でも、これも…徐々に癒えていくのだろう。
はぁ。…お風呂に入ろう。 …ふぅ。
はぁ、とか、ふぅ、とか、暫くは空いたモノを埋めるように、溜め息は続くんだろうな。でも、…。会って良かった。さようならと、言葉で言って、良かった…。
…ふぅ。お布団を敷き、部屋の明かりを消した。はぁ……、狭くなるけど、シングルベッド、買おうかな…。それにはまず仕事。あ、こういうのって、直ぐ買って後悔するパターンかも知れない。今の気持ちが落ち着けばやっぱり要らなかったってなりそう。今だけよ、上げ下ろしが煩わしいと思ってしまうのは。
何でもいい。目標は何もないよりある方がマシ。明日から就活よ。完全な駄目人間になってしまう前に少しでも進まなきゃ。私には私の生活がある。うん、寝よう。布団に包まった。
ピンポン、ピンポン、…。
…誰。……もしかして隣?ここはよく音が響くから。解らないのよね。
ピンポン、ピンポン、ピンポン、…。
煩い!何時だと思ってるの、夜中よ、夜中。迷惑な人ね。早く出なさいよね。
ピンポン、ピンポン、…。
えっ、…うち?やっぱりうちだ。はっきり聞こえてるもんね。セキュリティーも何もない。ドア一枚で守られているだけ。うちに訪問者なんて…近づいて覗いて見るのも…嫌。…恐い。
RRRR、RRRR、…。っ!…びっくりした…。
…電話。……番号は出てる……出たくない。
「…はい」
「もう忘れられてしまったのか?高鞍真希、どこに帰ってる。俺の部屋、忘れたのか?行ってきますと言って出たはずだ」
…あ、そんな屁理屈…。
「…開けろ。早く開けろ」
…。
「寒くて死ぬ」
…もう…。嘘つき。通話を切った。
カ、チャ。
「いい加減にしてください。なんでここが解ったんです。…え…誰?」
「俺だ、俺に決まってる。入るぞ」
「いや、ちょ、ちょっと、待って…」
「何だ…目茶苦茶狭いな…。ここに立ってるだけで全部見渡せるな」
「もう…馬鹿にしないでください。寝られる場所があるくらいでいいんです」
…やっぱり安住さんだ。
「どうしてまた、もう黒くなってるんですか?」
「ああ、あれから戻した。それより何で自分の部屋に帰ってるんだ。なんで俺の部屋に戻って来ない」
戻るとか、それは言葉のあや、行ってきますと言ってしまったからでしょ?
「高ぶった気持ちを鎮める為か。武蔵の顔を見たら熱くなっただろ」
…ふん、だ。……。
「そんな事より、どうしてここが解ったんですか?」
つけて来たのね…。
「武蔵の部屋から出て、駅の方に歩いて行くからだろ。俺は上から見てたんだ」
あの広~い硝子張りの窓からですか…。