勘違いも捨てたもんじゃない
「頑張ったな…直ぐ帰って来るなんて。それより、それ」
「……え?…はい?」
布団を指している。
「そんなの抱いてるなら俺を抱け」
え?…あぁ。
「アズミン、ですか?…あっ…」
「…アズミン?」
名前まで付けて気に入ってるじゃないかと思ったかな。しかもアズミンなんて…。
「…そうです。あれは安住さんが置いて行ったから、だから、いつの間にか…アズミンになったんです…」
数歩、歩けばもう布団だ。
「なんだ…俺の身代わりにしてるのか…」
ほらね…。
「じゃあ、アズミンには場所を譲って貰おう」
うさぎを布団から出すと椅子にチョコンと座らせた。
「これでいい」
何がこれでいい。よ。
「あ、今頃来たっていう事は一度帰って来たんですか?車は?」
「パーキング」
また誰か近所の女性を味方につけたのかと思った。
「パーキングだ。寝るぞ」
「ぇえ?いや、ここは見ての通り、狭くて、予備の布団なんて無いし布団もシングルですし、壁も薄いですから」
「フ。何の心配だ?俺を襲うつもりか。寝ると言っただけだが?」
…もう…とんだ薮蛇だ…。
「…いや、本当に、狭くて、はみ出たら風邪をひきますから。無理です」
「大丈夫だ」
布団を捲ってあっという間に寝かされていた。
もう…まな板の鯉なのでしょうか…?
「いつもしてるだろ?こうして…」
いつも?な、に、何?胸に顔を埋めるようにして抱きしめられた。 あ、…、も゙う。こんな風に露骨なのはいつもしてない。違う。
手探りで布団を掛けられた。 何だか中でゴソゴソしてる…。…服を脱いでいるんだ。器用な事です。通常通りの事と納得していいのか…。身につけているのはパンツのみになっていた。
「安住さん、うちは安住さんちとは違います。
そんな格好では…、部屋が冷えるので寒いです。待ってください。今、暖房を…」
…ん?もう、寝たのかな…。身体を伸ばし、限界まで腕を伸ばしてリモコンを取り、エアコンのスイッチを入れた。これでまだマシかな。うっかり背中が出てしまったら本当に風邪をひいてしまう。…もう一枚。軽い布団でも重ねられたら…。
クローゼットまで行けば取り出せるんだけど。
そう思って腕をそっと外してみようとした。条件反射なのか、余計ギュッと抱きしめられた。
…もう。起きてるんだ。
「このままで大丈夫だ」
…やっぱり、起きてるじゃない。
「薄いお布団がありますから、それを掛けていた方がいいです。安住さんに風邪をひかせる訳にはいきませんから」
腕の力が緩んだからスッと出て、素早く取り出した。
「これで少しましになります」
横長になるように掛けた。
「もういいのか?」
「え?…はい」
これ以上はもうやりようがない。
「では…」