勘違いも捨てたもんじゃない
エピローグ
トン、トン。
「安住さん…、起きてください。…安住さん」
「ん、ああ…、ん、ん。起こす時は…浩雅だ。…柔らかいな…真希、ん…凄い…フワフワしてる…」
…揉んでる。
「…それはアズミンです」
…ハハ、固まった?
「…俺は、…これを抱いて寝ていたのか。…腑甲斐ない…」
「ずっとではないです。ちょっと前、さっきからですよ。それよりお時間は大丈夫なんですか?お仕事に行かないと」
「ん。解っている」
あ、早い。もう起きて服を着てる。
「夜でいいから、店に来るように」
玄関で靴を履いている。
「はい?」
「面接だ。まだ経理のできる者が居ない。フロアの従業員は出入りのサイクルが早い。だが経理は長期的にできる者を雇うつもりだ。仕事で店に出る事は一切無い。採用なら俺のところにこの先ずっと居てくれたらいい。じゃあ、行って来る」
…え?……はい?聞き捨てならない部分があるんですけど。面接に行ったら最後…軟禁されてしまうって事じゃないですか?それとは意味が違うのか…。うっかりサインとか捺印とかしたら、それが婚姻届だったなんて恐ろしい事は起きないでしょうね…それもないわね、そんなうっかりはまずない。でも警戒しておかないと。…あ。朝ご飯は武蔵さんとなのよね…。
「あー、俺は昨夜、どうなったんだ?」
どうなったって…。あんなに…。本当に覚えてないの?わざと聞いてるの?
「知りません。ご自分の身体に聞いてください」
…何を…考えてるの?
「そうか…、真希の身体に聞いてみたら解るか」
キャ。え?いきなり何を…。
「何も…、付いてないな…」
キスマークでも見ようとしたのかしら。首元から少し服を引っ張って前を覗かれた。…ある訳無いのに。
「止めてください、もう…。早くしないと、時間がなくなりますよ?」
「そうだな」
…え?キャッ。
「今なら意識がはっきりしている」
何だか知らないけど、また部屋に上がって抱き上げられてしまった。
「何言ってるんですか?…何、…してるんですか、ちょっと…」
挙げ句、布団に連れて行かれ下ろされ…もう迫られている。腕を付きながらドンドン近寄って来る顔に、ジリジリと後退りした。
「だ、ま、れ…、煩い。また…近所迷惑になるだろ…」
…ん、…んん。顔を押さえられ食まれた。朝から…こんな…。確信犯…。本当ずるいんだから…。
慌てて服を拾って着ている。最初に着た時とは大違い…。
「おっ、まずい、遅刻する。前、見ても解らないはずだ。後ろにあった……じゃあ、……あ、チュ、行ってくる」
あ…、もぅ…、何が、お、よ。チュ、よ…。最初から何もかも覚えていたくせに…。行ってくるな、ずっと行ってしまえ。…気遣った紳士を装おって…。
…ごめん、アズミン。安住さんの香りが微かにするうさぎを投げつけてやった。
「おっと…。仕事も、好きも、俺は言うべき事は言った。押しつけるつもりは無い。決めるのは真希だ」
押しつけるつもりはないって…。キャッチしたアズミンを抱えて出て行った。…“抱き枕”が欲しかったら、自分から来いって事…?