勘違いも捨てたもんじゃない

見つけられなかったのかどうだか、原因はよく解らないが昨日の駅は過ぎたのに女性の下車する姿は無かった。この時間、乗って居なかったのかも知れない。…んー。もう一度車両を見て回れば良かったかな。はぁ、まあ、まだ俺は乗っていなくてはいけないんだし。

「次は〇〇、〇〇…」

ああ、…移動するか。もう、ここで降りてしまえ。…窮屈はもう勘弁だ。


「〇〇、〇〇…」

人波と一緒に降りた。妙に踏ん張ると余計な力も入るし…もう本当、ぐったりだよな…。何気に左を見た。…居、た。乗ってたんだ。降りると同時に走ってる…。おい、…おいおい、どうしたんだ。どこへ行くんだ。どこかに寄る予定でもあったのか?
取り敢えず見失わないように追った。…ああ、乗り過ごしたんだ。そうだ、だから戻るんだな。


はぁ、はぁ…。がっ。息…、整えてる余裕はない。

「…タカクラ、さん…?」

「え?あっ」

…びっくりした。

「会えましたね。名前、タカクラさんで合ってますよね?」

「は、い、でも…どうして、ここに?」

こっちに?

「元々、私の降りる駅はまだ一つ先なんです。だけど何だか窮屈だから降りたんです」

「そんな理由でですか?」

「はい。だけど、なんだ…、一緒の車両に乗ってたんですね。乗ってる間は見つけられなくて、今日は時間がずれてしまったのかと思った。貴女が降りて走っているのが見えて、慌てて追い掛けて来ました。戻るんですよね?また」

「はい。今日、上手く降りられなかったんです」

何やらメールでもしていたようだ。終わったのかバッグにしまった。

「今朝は痴漢は大丈夫でしたか?」

「え?ちかん?あ、はい、痴漢…フフ、あはい、大丈夫でした」

「ん?そうですか、それは良かった」

あのオヤジ、取り敢えず今日は現れなかったという事か。それなら、まあ良かった。

「今日は早く終わりますか?」

「え?まだ、はっきりとは、行って見ないと解りません」

『△番乗り場に〇〇行きの電車が入ります。お待ちのお客様は…』

「電車、来ますね。じゃあ、…これ、はい」

え?……え?!

「仕事終わったら、連絡くれませんか?あ、今日じゃなくてもいいです。いつでも気が向いたらで構いません」

「あ、あの、これ…」

あ、電車来た、乗らなくちゃ。

「あの、これ」

「あ、私はまたあっちのホームに戻ります」

あ。行っちゃった…。

乗り込んだ。プシュー…。
…何、これ…。名刺を渡された。これって、本当?…偶然なの?本当に?嘘みたい…。
さっきの武蔵さんと同じ会社。しかも、安住浩雅って名前の前に、代表取締役って。社長さんなんだ…。
そして武蔵さんはそのSecretary…秘書って事?
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