勘違いも捨てたもんじゃない
冒険はドキドキ
「よ、おはよう、高鞍」
「あ、…おはようございます」
ん?高鞍?妙な反応だな…。
「ちょっと来て、高鞍」
「はい?」
「ほい」
備え付けの珈琲メーカーでカフェラテを入れてくれた。
「あ、すみません、有難うございます」
「いや……どうした?今朝もまた痴漢にあったのか?」
右手の指先で眼鏡をあげながら話す。あ、…。それは。
「いいえ、大丈夫です」
「本当か?」
「え?」
「まあいい。話せない事もあるからな。本当に大丈夫なのか?痴漢じゃなくても、中々言い辛くて悩んでいる事があるなら、俺で良ければ聞くから。まさか…無いとは思うが、セクハラとか、されて無いか?」
「はい。それは大丈夫です」
「…本当だな?」
「はい、本当です」
「ん」
私の直属のこの上司は私の転職理由を知っている。だから、少しの変化にも敏感に反応してくれる。有り難いと思っている。そういった意味でもこの会社に入れて良かった。
「実は……本当に私的な事で、ちょっと、戸惑う事というか、不思議な事があって、何だか良く解らなくて、それで…」
「フ…それじゃあ、俺にも何だか解らないな」
「あ、はい。…フフ、すみません、そうですね。大雑把すぎて全然解らない話ですね」
「ああ、まあ、…いいさ。笑ってるくらいの事なら、それもまだ大丈夫そうだな」
「はい」
まだ、大丈夫だ。
「とにかく、高鞍。何かあった時は早目にな?問題は対処が早い方が大きくならずに済むから。嫌な事をされたり、理不尽な事を言われたら我慢せず言うように。男の俺に言い辛い事があれば、誰でも構わない、誰か女子社員を通してでもいいからな。する必要の無い我慢はしなくていいから」
「はい、有難うございます」
「ん、じゃあ、今日も頑張るか、な?おお、週末だったな、尚更頑張れるな」
手をあげて課長は席に戻って行った。
「はい」
きめ細かい心遣い、有難うございます。