勘違いも捨てたもんじゃない
冒険はドキドキ

「よ、おはよう、高鞍」

「あ、…おはようございます」

ん?高鞍?妙な反応だな…。

「ちょっと来て、高鞍」

「はい?」



「ほい」

備え付けの珈琲メーカーでカフェラテを入れてくれた。

「あ、すみません、有難うございます」

「いや……どうした?今朝もまた痴漢にあったのか?」

右手の指先で眼鏡をあげながら話す。あ、…。それは。

「いいえ、大丈夫です」

「本当か?」

「え?」

「まあいい。話せない事もあるからな。本当に大丈夫なのか?痴漢じゃなくても、中々言い辛くて悩んでいる事があるなら、俺で良ければ聞くから。まさか…無いとは思うが、セクハラとか、されて無いか?」

「はい。それは大丈夫です」

「…本当だな?」

「はい、本当です」

「ん」

私の直属のこの上司は私の転職理由を知っている。だから、少しの変化にも敏感に反応してくれる。有り難いと思っている。そういった意味でもこの会社に入れて良かった。

「実は……本当に私的な事で、ちょっと、戸惑う事というか、不思議な事があって、何だか良く解らなくて、それで…」

「フ…それじゃあ、俺にも何だか解らないな」

「あ、はい。…フフ、すみません、そうですね。大雑把すぎて全然解らない話ですね」

「ああ、まあ、…いいさ。笑ってるくらいの事なら、それもまだ大丈夫そうだな」

「はい」

まだ、大丈夫だ。

「とにかく、高鞍。何かあった時は早目にな?問題は対処が早い方が大きくならずに済むから。嫌な事をされたり、理不尽な事を言われたら我慢せず言うように。男の俺に言い辛い事があれば、誰でも構わない、誰か女子社員を通してでもいいからな。する必要の無い我慢はしなくていいから」

「はい、有難うございます」

「ん、じゃあ、今日も頑張るか、な?おお、週末だったな、尚更頑張れるな」

手をあげて課長は席に戻って行った。

「はい」

きめ細かい心遣い、有難うございます。
< 17 / 150 >

この作品をシェア

pagetop