勘違いも捨てたもんじゃない
浩雅を送り届けた。
「では、ご連絡、お待ちしてます」
「ああ。いつものように。適当に時間潰してていいからな。早目に連絡する」
「解ってるよ」
店に入って行くのを見届けた。
…ふぅ。よし。
【今晩は。お仕事は、もう終わられていますか?急なんですが自由にできる時間が今から二時間程できました。嫌でなければドライブにお誘いしたいのですが、如何でしょうか。武蔵】
…どうかな…。
ブー…、ぉ…来、た…。どういう返事…。
【自宅に帰っています】
…ん?これだけか。どういう風に取ればいい。
ん?
【急いで着替えています】
…あ。じゃあ、OKでいいんだよな。
【では迎えはどこに?最寄りの駅にでも?】
いきなり自宅にと言うのはまず無いだろうから。
【住所はXX、○−○○−○ マンションです。下で部屋番号203を呼び出してください。直ぐ下ります】
あ、…。お、躊躇している時間は無い。
ナビに入力した。
逸る気持ちを抑えてアクセルを踏み込んだ。しかし、知り合ったばかりの男にこんな簡単に住所を教えてくれてもいいのか…。信用してくれてるってことなのか…。ま、今は行くしかない。俺にとっては、次、いつあるか解らない貴重な時間だ。それに、今からの状況によってはこれっきりになるかも知れないしな…。
携帯をスタンドに置いた。イヤホンをした。
ここからそんなに遠く無い。帰る時間、冷静に計算しておかなければいけない。胸の高鳴りに気を取られ、回転の悪くなった頭を賢明に巡らせた。
…はぁ…二時間とは伝えたが、やはりそんなに長くは居られないか…。
203、か…。きっとマンション周りは長くは停めていられないだろう。降りて呼び出すよりも着いたら電話をしようか。
あ、ここか、ここだな。電話をコールした。
ん?…あ。車に人影が走り寄って来ていた。
窓を開けた。
……高鞍さんだ。携帯を耳に当てた高鞍さんだ。
「武蔵さん?…」
高鞍さんだ。
「はい。待って、直ぐ…」
急いで降りた。
「…迎えに参りました」
携帯を切り、下ろした。なんだか動きがスローだ。俺…緊張してるな。
「…はい。下で待ってた方が、少しでも時短になるかなと思って…」
高鞍さんは耳から携帯を離し、握りしめた。
その手を取った。
「すみません。思ってるよりあまり時間がありません、取り敢えず急いで、乗って」
「あ、はい」
手を引き、さらうように車に乗せた。
「急かすようですみません」
「…はい、いいえ」
助手席でシートベルトをしているのを確認してドアを閉めた。
とにかく、少しでも早くこの人を確保してしまいたかった。