勘違いも捨てたもんじゃない

「はい、してみて?」

「え?…何を…」

急に…してみてって、何?何をどうしろと?

「荒療治。克服するためだ。俺の身体、真希の身体だと思って、真希がされたようにしてみて」

あ…再現してみろって事…。あんな…されたことをするなんて…。

「え…そんな事、できない」

首を振った。嫌。できない、無理。そんな事、できない。された事をするなんて…嫌。してみせたら、された事…武蔵さんに解ってしまう。それに武蔵さんにそんなことをするなんて。したくない。戸惑っていた。

「いいから、するんだ。大丈夫だ」

…できない。

「こんな風にか?」

正面から手を取られて、ワイシャツの上から胸に触れさせた。

「あ、…違う」

慌てて手を退いた。

「じゃあ、はい、どんな風に?」

…しなくちゃ駄目なの?……しろと言われてしたら、引かない?本当は本気で嫌だと思ってなかったんじゃないかって。だからズルズルと拒否しなかったんじゃないのかって……。見られてる。待ってる…。こんなことをして……私とのこと、終わってしまわない…?……。それも仕方ないか…。

「……起きて…ください」

「ん」

起き上がって座った。

「…本当は、立った格好で後ろからされました…」

武蔵さんの後ろに足を投げ出すようにして座った。戸惑いながら、背中にくっつくように抱き着いた。実際、男女逆転すると、身体の大きさに違いがあり過ぎて上手くはできないと思う。
ドキドキしている。されたこと、しようとしてなのか、武蔵さんに密着したからなのか、もう…何だか解らない。動悸が激し過ぎて…動揺も伝わっていると思う。

「…武蔵さんは私より身体が大きいから、された通りにはできないです…」

「解ってる。いいから続けて?」

…それに…妙な背徳感のようなモノも感じてしまう。

「物凄い、ドキドキしてるな」

「あ、だって…凄い悪い事してる気になるからです」

それだけではない。…武蔵さんの身体に私は身体を押し付けている…。こうしているだけではなく、係長は回した腕、手で私の胸を…。

「悪い事した奴の真似だからだよ…さあ、構わないから」

「…はい。…はぁ、凄いドキドキします、こんな…ごめんなさい」

「ん、大丈夫だ」

後ろから回していた右手でワイシャツの胸の辺りのボタンを一つ外した。

「…あ……ごめんなさい…」

なんだか、嫌。したくない。

「いいから…そいつはそんな謝ったりしてないだろ?」

「はい」

謝る意味では言われなかった。…ごめんな、ごめんなとは言われ続けた。ただの言葉、あの声……。
怖ず怖ずと開いた隙間から胸に手を差し込んだ。…手が止まる。罪悪感にかられながら左胸辺りに触れた。……逞しい胸が強く脈打っていた。……戸惑いながら掌で全体を覆った。勿論こんなものでは無い。もっと…執拗に色々…手や指先は複雑に動かされた、だけど。…はぁ、そんな事…恥ずかしくて出来ない。
腕を掴まれた。

「…あ」

「こんな大人しく…、ジッと乗せたままなんかじゃなかったんだよな…」

腕を上下に動かされた。手を重ねてグルグルと回された。

「あ、嫌、そんな事までしないで…。私が変態みたい…恥ずかしいから嫌です…」

腕を引き抜こうとしたけど掴まれた力が強くて無理だった。

「ああ、そいつはもっと変態だったよな?こうしてしながらも、耳元で嫌な事も言われただろ」

胸に乗せた手に上から手を重ねられたまま。…あ、…こんな、…変よ、…何だか、おかしくなってしまう。

「ゔ…はい」

それはそうだけど。…言えない。それは言えるような言葉ではない。

「で?入れた手はこれからどうした。口では言い難いだろ」

「…はい。でも武蔵さんは…ブラはしてないから」

「あ?ハハ、そりゃそうだな。今してたらショッキングだったろ、ハハハ」

「それは、はい、ちょっと考え直すかも、です」

「フ。まあ、それはもういい。で?」

笑い飛ばしてくれた。少し、楽になった。

「実際はブラを…上にずらされて…それからシャツのボタンはここから上まで外されました、それで…」

「解った、もういい。口では言わなくていい」

「はい…。武蔵さんはスカートも穿いて無いから」

「ああ、当たり前だな」

ん?なんだか怒ってる?

「…脚もです、こうして…」

武蔵さんの脚を、膝上辺りに腕を伸ばして、そうっと内股に移動させながらゆっくりと撫で上げた。 …あ。

「…武蔵さんはスラックスを穿いています。実際はスカートの中、直にです」

撫で上げたところで武蔵さんが少しビクッとしたように思った。あ…こんな事…。私は…何をしているんだろう…。やれと言われても…ここまでなんて。

「あ、…ごめんなさい…」

少し自分が調子に乗ってしまった気がした。 もうこれ以上は本当にできない。
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