勘違いも捨てたもんじゃない

あっ。

「……どう?何となく、楽になったんじゃないのか、どうだ?」

腕を掴まれ、引っ張られるようにして膝の上で向き合うようにして座らされた。

「もう、案外、平気になったかもよ、どうだ?」

私がした事だけど開けたワイシャツから逞しい胸が見えていた。別の問題…平気じゃ居られない…… 私、この肌に手を触れていたんだ。

「フ。今、俺の事、欲しくなってない?」

ゔ。そんな直球…。見ていた事、思い出していた事、全部知られてる…。いやらしい女だって思われたかも。

「平気ならいいよ?さっき迄好きにしてたんだから、続けて好きにしても」

そんな…好きにって、それは無理。 ……私からできるのはせいぜいこの程度。 中途半端に開けていたワイシャツのボタンを下まで外した。 前を開けて両腕を差し込み抱きしめた。

「…これが…精一杯です」

こんな事、自分からして、鼓動が加速してるのが解った。

「はぁ。せめて、腕も抜いて、全部脱がせてくれるくらいしてくれないと…」

あっ。そう言うと抱きしめたまま臥せ込まれた。身体を起こし膝立ちになった。見つめられた。脱げかけのワイシャツを脱いだ。 …ドキドキする。……綺麗な身体…。目のやり場に困る。なんて言ったらいいのか…とにかく……私は普通では居られない。心臓が強く打ち続けている。

「…無理にしたい訳じゃない。多分大丈夫だと思うけど、やっぱり駄目だと思ったら直ぐ止めるから、言って…。続きを始めようか…」

手をつき顔が近づいて来て目の前で止まった。あ。

「欲しかったら、唇…迎えに来て…」

…そんな事…。無理…。ぁ、待ってるの?
…、…あ。 少し顔を寄せたら少し退かれた。…頑張ったのに。…意地悪だ。…見つめられてる。
少し上体を起こし気味で近づけた。触れそうなところで、まただ。また少し退かれた。 …。絶対意地悪されてる。 しない。……もう、しない。このままで居るんだから。そのまま距離を保ったまま動かなかった。…。

「フ、……参った…降参…」

顔を包まれた。

「ん、んん…。くそー、俺の負けだな。これ以上はもう我慢出来ない…。そいつのしたこと、全部に腹が立って堪らない。好きなように執拗に触れたと思うと、嫉妬する。……内股なんか撫でるからだぞ…」

…、あ。 それは…。しろと言われたからしたのであって、決して誘惑した訳では…。あ。…、ん。もう、無理だとか、駄目だとか、私の発する言葉は、さっき迄の意味とは違った。
武蔵さんの身体に腕を回しながら、私の頭から変態上司は消えていた。悍ましく残っていた記憶、身体の感触は武蔵さんが触れて何度も消してくれた。

「…はぁ、…武蔵さん、…ぁ」

抱きしめて欲しい…それだけでいい。もっと、もっと…強く。気持ちを感じたい。

「猛だって言っただろ?…真希…」

「ん………ぁ、猛さ…ん」

武蔵さんが欲しい…です。

「…ん。もう…大丈夫だな…」
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