勘違いも捨てたもんじゃない


「あー、高鞍さん。来てくれましたね。有難うございます。少し強引だったから、待ちぼうけを食らっても仕方ないかと思っていました。
解りましたと言って貰っても、こうしてお会いするまでは半信半疑でした。ちょっと待ってくださいね」

素早く携帯灰皿に煙草を入れ、消すとしまった。

「さあ、どうぞ」

こうして話す声を聞いてもやはり変わりない。さっきの一瞬の感覚は何だったのだろう。
直ぐ別の……ドキドキが始まった。窓も暗くて中が見えない。どのドアを開けられるかで、二人きりなのか、三人なのか…判明してしまう。あ。指先を掬い上げるようにして手を乗せられ引かれた。助手席のドアに手を掛けた。

「申し訳ない、煙草の匂いは大丈夫?」

…私は助手席という事だ。

「…え、あ、はい。はい、大丈夫です」

…考え事をしてると失礼な態度になってしまう。気をつけなきゃ。手を取られたその手が煙草を消した手だったから気にしてくれたのだ。なんて気配り…。

「そう。では、どうぞ、乗って頂けますか?」

開けたドアを押さえていた。

「あ、はい。有難うございます、…失礼します」

スカートを押さえ乗り込むと同時に目は運転席に。ドアが閉められた…居ない。誰も居なかった。つまり、安住さんと二人…。運転席側のドアが開いた。安住さんが乗り込んで来た。シートベルトを締めている。
エンジンをかけた。

「ん?シートベルトを締めてくれるかな?」

「あ、はい…すみません」

武蔵さんが居なかった事。運転手さんが居た訳でも無く安住さんと二人っきりだという事。そして、何だか見た目の雰囲気が違ったと同時に、受ける空気感の違いみたいなモノを感じた事。自然と安住さんを見ていた。

「あぁ、髪が黒くなったから、変かな?印象が違ったかな?」

「あ、は、い…」

思っている事とニュアンスは違うけど。元々は黒かっただろうし、変って事は無いだろう。

「クスッ。そろそろシートベルト、してくれるかな?」

「あ、あ…すみません」

カチッと差し込んだ。これでは見蕩れていたと思われる。

「では行きましょうか」

点滅していたハザードを止め、目視確認すると、車は静かに走り出した。流れるような一連の動作。運転も上手そうだ。

自分から何も会話を切り出せない。公園で話していた時のようにはいかない気がした。私が勝手にそういう空気にしているのかも知れないが。武蔵さんと関係の深い社長だと思って意識しているからだと思う。…警戒…?

「ご飯の前に少し寄りたいところがあるんです。ちょっと寄り道します」

え?寄り道?聞いてない、どこに?…。

「あぁ、大丈夫ですよ、安心してください。その……誤解のないように。変なところには連れて行きません、危険な目には遭わせませんから」

…私ったら、そんな事を言わせてしまう表情をしたんだ…。

「ごめんなさい…」

あ、謝ってしまったら肯定したことに…恥ずかしい…。

「いいえ、とんでもない。心配して当然ですよ」


暫く走っていると見慣れた景色が見えて来た。
ここは…あの公園?
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