勘違いも捨てたもんじゃない
「さあ、着きました…」
脇道に車を停め、ドアを開けられ、降りた。
「少し外は寒いですね。嫌でなければ…これを…」
あ。そう言いながら上着を脱ぐと私に掛けていた。袖を通された。
「すみません、有り難うございます…」
さり気無い気遣い……とてもスマートだ。
「コートにしても大きいかな。街灯のあるところまで少し暗い。危ないので手を繋ぎますよ?」
あ。流れるような所作、やはり紳士なところは変わらない。上着を脱いだ安住さんはウェストコート。この姿、とても素敵だ。…。
「ん?」
「あ、何でも…あ、ごめんなさい。安住さんは寒く無いですか?」
見惚れてしまったとは言えない。
「大丈夫」
馬鹿みたいに、きっと私は単純に、安住浩雅という紳士にずっと見惚れ続けていた。
「この公園の向こう側から見る形になるんだ」
何を見るのだろう…。今、公園の中を通り抜けていた。この公園は広い。
端まで来た。小さいゲートのような扉を開け道に出るようだ。ギーッと金属特有の音がした。
「少し段差があるから、足元ゆっくり、気をつけて」
はいと返事をすると、指先だけが袖から辛うじて見えている両手を、正面から握られて、導くようにエスコートしてくれた。
「もう少しこっちに来てください」
更に私道のような道を渡り、振り向かされた。
「どうかな…。今抜けて来たこの公園の、奥まったところがちょっとした林になっていただろ?そこをこっち側から見たら、こんなにいい景色なんだ」
そして、また振り返された。そこは空き地のようになっている土地にロープが張られていた。
「今はまだ何も無い。これからです。ここに広めにテラスを造って、カフェテラスを造ります」
…あっ。仰ぐように安住さんを見た。頷き返された。
「できたら一番に貴女と珈琲を飲みたい。まだですよね、カフェテラスでランチをする約束、してますからね。それをここで…」
あ、…あの時の話だ。その為に造るの?…そんな訳はない。これは多分話上手な人ならさらっと言えること。…これはまた、更に社交辞令の続きだろうか。