勘違いも捨てたもんじゃない

ふぅ。

「若、お帰りなさいませ」

「ああ、帰ってたのか」

「はい、少し前に」

「急に悪かったな、武蔵。代わりに会合に出て貰って」

「…いいえ、親睦会のようなものですから。…長かったですが、ご飯も頂きましたし。特に変わった事はありませんでした。いつも通りの会合でした。詳しくは明日にでも資料に目を通して頂ければ大丈夫かと。若は、ご飯は大丈夫なのですか?」

「ああ、俺は済ませた」

「…左様ですか、では」

「ああ、お疲れ様、おやすみ」

「おやすみなさいませ」

淡々と…何が済ませた、だ。急に用が出来た、会合は頼む、だからな。浩雅の言う急用と言うのは、真希と会う事だったんだろ?要は、始めから大した内容ではない会合に合わせて、真希と上手くコンタクトが取れたからなんだろ?
仕事も女も…何でも上手く行く。自然とそんな運を持っている…。そういう奴だ。はぁ、…本当、単独行動の内容は言わないよな。まあ、一々言わないのが当たり前かも知れない。その為の単独なんだから。俺だって言わない。

真希からメールが来た時は、もう連絡の取れない状態になっていた。早い時間からの親睦会だった。それから今までだ。長い拘束だ。解放されたからといって途端に連絡もできない。どんな状況で二人が居るか解らないからだ。

浩雅が真っ直ぐ帰って来る事を願ってこうしてじりじりと待っていた。どんな連絡も、今更もう…しなくてもいいくらいだけど。浩雅とご飯を食べた、という事だ。細かい事は何も知らない。一々気にしたらきりが無い、…二人一緒だった事だけで苛々する。だから。

【メールはちゃんと見た。連絡できない場所に居たから何も送れなかっただけだから。変な言い方かも知れないけど、怒ってなんか無いからな。それでメールを返さなかった訳じゃない】

弁解だけのぶっきらぼうなメールをした。時間は空いてしまった。浩雅が戻ったタイミングでだ。それでも何も送らないよりはマシだろう。

浩雅はこれからも真希を誘うつもりなのだろう。とにかく真希が気になり始めている。…俺と同じ人をだ。どんなつもりで接近してるんだ。この先どうするつもりなんだ。こんな早い時間に帰って来た、ご飯の先…誘わなかった。それは真面目に考えているとも取れるんだよな。…誘ったけど断られた。ただ…真希が相手をしなかったから仕方なく帰って来たのかも知れない。それだとどうなんだ。場合によっては…。真希を…遊ばれては困る。適当な相手、そんな関係の時には俺にも解るように行動する。だから、やはり真希に対しては真剣なのかも知れない。…かも知れないじゃ無く、確かにそうだろう。…。
ぼちぼち、この仕事から離れてもいいのかも知れない。ずっとこのままだと正直いつかは不自由さを感じてくるだろう。このままだと、遅かれ早かれ、真希との事がきっかけになるかも知れない。幼なじみだからといって、あいつの秘書は、いつ辞めたっていいんだから…。
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