勘違いも捨てたもんじゃない

「ちょっと来て、高鞍」

「はい?」


カフェラテを渡された。

「あ、すみません」

「なんの、なんの、まあ座ろうか」

「は、い?」



「ふぅ、ア、チッ」

「大丈夫ですか?やけどとか…」

「大丈夫だ。高鞍は大丈夫なのか?」

「え?私はまだ…」

飲んでないですから。熱いのは知ってます。
ハンカチを取り出し、口元を押さえていた。こっちを見る課長の顔は、珍しく神妙な顔つきだ。
フロアを出て通路の端にある長椅子に座っていた。

「飲み物のことじゃない。この前…、会社に電話がかかって来ただろ?席を外すなんて事は今まで無かったから。あれって、何かあったんじゃないのか?」

やっぱり…微妙に鋭いなぁ。電話を取った時、何となく反応はしていると思ってはいたけど。

「勿論、プライベートな事だったんだろうけどな。だとしたら、個人の携帯とかにして来やしないかと思ってな。しつこくされてる人が居るとか。これは余計な詮索か?…立ち入り過ぎて鬱陶しいくらいの事か」

いや、あの…。

「何でもありません。確かに個人的な電話でしたから…ちょっと席は外しましたが。心配して頂くような事ではありませんでしたので」

「そうか…なら、いい。聞くつもりはなかったが、その…痴漢に関わる事で、何か混み入った事になっているんじゃないのかとか、勝手にだ、勝手にあれこれ想像して心配になったんだ。ほら、駅で、とか、ちらっと言葉が聞こえたから」

確かに。周りに解らないように、はっきりと相手を確認する話し方はしなかったから。あんな言い方にしたんだ。

「誤解だったと言っていた痴漢が、ストーカー化して、付き纏って来てるんじゃ無いのかとかね。心配になったら想像を膨らませ過ぎたのかも知れないな俺は」

…そこまで?ストーカーとか、付き纏いは違うけど、ものの見方を変えれば、安住さんのした事は、こちらの受ける気持ちが変わればそれに似た事にもなるんだ。

「それは今のところ無いですね」

「ん?…そうか。本当だな?」

「本当です」

「ん、解った」

…。

「…俺はな、高鞍…。心配なんだ。…しつこいようだけど。高鞍は自意識が無さ過ぎるから」

「は、い?」

…自意識。…自意識…?

「どうして前の会社でセクハラされたのか、痴漢は、…まあ誤解だったらしいが」

「あの」

「ん?」

「誤解の痴漢とは別ですが、…多分、本当の痴漢には遭っています、私」

「は…。何?!…それは本当なのか?」

「多分、ですけど…」

「…はぁ。高鞍…」
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