勘違いも捨てたもんじゃない
大袈裟にしてはいけないのに…涙腺が決壊しそうなのを堪えた。訳も知らない人に、こんな風に気を遣ってもらったことはない。優しくされると弱い。
安住さんが静かに席を立った。冷蔵庫から何やら取り出して調理しているようだ。小気味よく刻む音。カチャカチャと混ぜる音。
「はい。後からになったけど、簡単に…」
スライスしたトマトに細かくみじん切りされた玉葱。フレンチドレッシングがかけられていた。シンプルで、粗めのブラックコショーとよく冷えたトマトが美味しかった。
「あと、…デザートもあるよ」
また立ち上がって何かを取り出していた。食器棚からはケーキ皿や珈琲カップを取り出した。
「はい、モンブラン。今、珈琲も入れるから」
あ、…。私、すっかりお客さんになってた。
「安住さん、私がします」
「いいよ、君は美味しく食べていなさい」
…この人に甘えては…。
「…有難うございます」
珈琲のカップが置かれた。……いい香りだ。
「夕飯につき合ってもらってるのは私だからね。…半ば強引に。姑息に?ハハハ。あー、どこかに行った方が、高級料理が食べられたかも知れないね?だけど、今夜の君は家ごはんの方がいいかと思ってね…」
安住さん…。こんな様子では外でなんて無理だろう。
「…有難うございます。上手く言えません。でも、こっちのご飯が美味しいです、凄く美味しいです」
「…フ、それは良かった。お店はまたいつでも行ける。君さえ断らなければね?」
安住さん…。
…きっと一つ一つが品質の良い物ばかりだと思った。調味料にしても食材にしても。全てのもの。目にしたことがない銘柄の物が並んでいた。……全然住む世界が違う。モンブランだって。珈琲の豆だって。だから美味しいと言ったんじゃないけど。きっと、全てが良質の物なんだろうって…。
こんなところに住んでいる安住さん、…当たり前よね、社長さんなんだから。
恵まれた環境に生まれ、でもきっとそれだけじゃない、個人の努力だって怠ったりしないだろう。その結果が…。頭の中で巡らし、目でも部屋を巡らせていた。
「ん?」
「あ、いいえ、何でも…」
落ち込んだせいでちょっと卑屈にもなってるな、私。
「君は変わらず接してくれるね」
「え?」