勘違いも捨てたもんじゃない
真希…可笑しいな、見逃したか…?ここまで来て会わないなんて可笑しい…。
「武蔵と会うんだろ?連絡して?俺と一緒だって」
「え、あ、はい…」
【武蔵さんだと思って車をノックしたら社長さんで、今一緒です】
ん?あ゙!…車、…間違えたのか…。…どうするつもりなんだ浩雅。
「迎えに来てって、連絡して?」
迎えにって…。
「どこにですか?」
「俺のマンションに」
え、安住さんのマンションになんて……俺?今、俺って…。
「あぁ、ハハハ、俺って言ったから驚いた?
それともマンションってことに?
普段武蔵とは、俺って話しているよ?」
…。
【社長さんのマンションに迎えに来てください】
真希、解ったよ。すぐ行くからな。
武蔵さんからずっと返事が来ない。運転してるからかな…。大丈夫かな…。
「さて、どこに行こうか」
「…えっ?マンションじゃ…」
「それでは面白くない。ちょっとは武蔵を本気にさせてやらないと」
「どういう意味…」
「あいつは俺が君と居ると明らかに解っていても部屋に乗り込んで来ない。…何を考えているのやら。下手くそなんだよ。だから闘争心に火をつけてやろうかなと思ってね。君だって、好きなのに不安だろ?そんな奴が相手では。思いもよらない邪魔までされて…。私はどうなってもいいの?なんて思わない?」
…。
「奪いに来るくらいの事はして欲しい、なんて、思うでしょ?」
そんな…、それは。…何もかも私が悪いんだ。
「試すような事はしないでください。降ります」
信号で止まれば降りられる。シートベルトに手をかけていた。
「はぁ、…送るよ」
「え?」
「ちょっと言って見ただけだ。武蔵のマンションで降ろすから。行き違ったって連絡をすれば大丈夫だ。私のマンションには連れて行けないだろ?」
…よく解らない。さっきまでの話は何だったの?私の気持ちの代弁をしてくれていたの?私自身が自分でよく解らなくなってるから?でも…何故そんなことをするの…。
「はい、着いたよ。あとは連絡して迎えに来てもらって。目の前で熱い抱擁は見せられたくないから。じゃあ」
安住さんは車を走らせ消えた。
【武蔵さんのマンションの前で待っています】
凄い勢いで車が入って来た。
「真希!」
車から飛び出して来た。
「無事か?」
飛び付いた。
「はい、何も。ごめんなさい、よく見もしないで…」
「いいんだ…あいつ、どういうつもりで、こんな事…」
武蔵さんに闘争心をって言ってた…。
「私が間違ったからいけなかったんです。歩いてる場所、考えるべきだったのに。もう、いいです…ごめんなさい」
「真希…」
顔を覗き込まれた。
「…もう。武蔵さんに会えたから、いいんです」
…ごめんなさい。何もかも私が悪いんです。改めて抱きしめられた。
「うん、…そうだな。車入れるからちょっとの間だけど乗って」
「はい」
「悪かったな、車。間違えたんだよな?同じだから」
「はい、馬鹿だから…武蔵さんだって、丁度渋滞で停まってたから…何も疑いも無く近寄ってノックしてしまいました」
「ああ、この車は俺の車で俺しか乗らない。もう一つ、さっき浩雅が乗っていた方は会社の物で俺も浩雅も運転する。いつも使うのはあっちだ。だからナンバーで覚えていて欲しい」
「解りました。こっちの時は武蔵さんだけですよね」
「ああ、この車は俺しか運転しない」